2017 Fiscal Year Research-status Report
ハイダ語の形態統語法と構造的変化に関する総合的研究
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16K02663
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
堀 博文 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (10283326)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ハイダ語 / 北米先住民諸言語 / 統語論 / 連体修飾構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の主たる目的は,カナダのブリティッシュ・コロンビア州北西海岸地域で話されるハイダ語を対象とし,現地調査を通じて,形態統語面に関する様々な言語事象を記述・分析するとともに,およそ100年前のハイダ語資料と対比することにより,ハイダ語の構造的変化を明らかにすることである。平成29年度の研究成果は,おおよそ次のようにまとめられる。 1.ハイダ語の連体修飾構造は,先行研究によれば,被修飾部である主要部が修飾部から切り離されない,いわゆる主要部内在型関係節と主要部が修飾部から切り離される主要部外在型関係節の二種類があるとされるが,それらに加えて,主要部と修飾部が文法関係にない「外の関係」にあるような連体修飾構造もみられる。これらの連体修飾構造を統一的に説明するために,「疑似名詞節」という単位を導入することを提案し,ハイダ語の連体修飾構造は,疑似名詞節と名詞句が並置されることによって生じるいくつかの関係のうち,修飾―被修飾という関係であることを明らかにした。更に,「疑似名詞節」の考え方を導入することにより,複文構造におけるいわゆる副詞節も並行的に考えられることを示唆した。 2.ハイダ語話者の協力を得ながら,1970年代のハイダ語の録音資料(アラスカ大学アラスカ原住民言語センター所蔵)を音声表記し,形態素分析と英訳を付す作業を行なった。加えて,1905年に公刊されたJohn R. Swantonによるハイダ語テキストを再分析した(いずれも前年度から継続)。これらは,ハイダ語の構造的変化を解明するための基礎資料となるものである。 3.ハイダ語の複文構造と情報構造に関する基礎資料の蒐集を図った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査を行なうにあたって最も必要なのは,話者の協力である。本研究課題の代表者は,長年現地を訪れることによって,話者とその周囲の方々とも友好的な関係を築いてきているため,常に話者から協力が得られるようになっている。また,現地の治安は比較的安定しており,調査の遂行が困難になるほどの事態には直面しておらず,その点でも本研究課題を遂行するための環境は十分整っていると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きおよそ1ヶ月弱の間,ハイダ語が話されるハイダ・グワーイ(カナダのブリティッシュ・コロンビア州)において話者の協力を得ながら現地調査を行なうことにより,ハイダ語の文法記述,とりわけ複文構造の解明に必要な言語資料を蒐集する。更に,過去になされたハイダ語資料(1900年代)の整備と録音資料(1970年代)の分析を行ない,それらの資料と現代のハイダ語を比較することによって,ハイダ語がおよそ100年の間に蒙った構造的変化(主に形態統語面)を明らかにすることを試みる。
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Causes of Carryover |
本研究課題の関連文献として発注した書籍(洋書)が3月に納品された後,損傷があることが分かり,新品に取り替えようとしたが,国内に在庫がないために年度内の納品が難しく,結局,購入を断念した。「次年度使用額」として生じた分は,その購入代金に充てる予定である。
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