2017 Fiscal Year Research-status Report
日独対照研究に基づく総合ドイツ語文法の試み:基本語彙及び頻度の観点を交えて
Project/Area Number |
16K02664
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
大薗 正彦 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (10294357)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | ドイツ語 / 基本語彙 / コーパス / 頻度 / 文法 / 事態把握 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,過去のドイツ語研究の蓄積をもとに,現在利用可能なコーパスデータを活用し,使用頻度なども導入した,新たな,かつ日本語との対照研究の成果を踏まえて(再)構築した,本格的なドイツ語文法を作成することを最終的な目的としている。期間内の具体的目標として次の3点を設定しているが,平成29年度は主に1, 2の作業を継続しながら,全体のアウトラインを作成する作業を行うことを目指した。 1. 基本語彙5000とその頻度調査に基づく初級・中級文法の再検討・再構築。 2. 日本語と表現様式が異なるドイツ語表現に関する頻度調査及びその体系的記述。 3. 以上の調査を踏まえた,日本語を出発点とした総合ドイツ語文法の(再)構築。 第1点目については,昨年度に引き続き,継続的に基本語彙5000語の語彙体系分析を進めているところである。研究補助の協力も得ながら,データ整理,例文整理を続けている。第2点目については,とりわけ言語化に先行する事態把握(construal)のレベルに着目しながら分析を進めた。事態を言語化する際の話し手のスタンスに加えて,聞き手が取るスタンスにも着目すると,日独語における表現形式の差異がより的確に捉えられる。これは近年認知言語学において議論されることの多い間主観性の問題とも重なる。これらの作業と並行して,初級・中級文法事項の整理・確認作業も行った。 研究成果として,ドイツ語の事態把握をめぐる問題について対照的観点から論じた論文を1本公刊したほか,個別事例研究として,ドイツ語の心態詞と日本語の終助詞を対象とし,独自コーパスに基づく調査結果をまとめた紀要論文を1本発表した。なお,これまでの研究では日独の翻訳資料を主なデータとして使用してきたが,翻訳の問題についても一度きちんと検討しておく必要性を感じているところである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大きく三つの作業を進めてきた。まず,昨年度に引き続き,基本語彙(5000語)の体系分析・頻度調査などを行った。本研究の目的のためには地道な基礎データの収集・構築が重要であり,これまでも研究補助の協力を得ながら作業を進めてきた。しかしながら,このような基礎的作業は時間を要することも事実であり,現時点では,まだ網羅的なデータ整理・調査が完了したとは言えない状況である。本年度も引き続き各基礎語の文法情報のデータ整理を行っていく(とりわけ形態情報と意味情報,ほかに類義語や反義語の整理など)。 次に,基本語彙分析の作業と並行して行ってきた日独対照研究の内容を二本の論文としてまとめた。一本はドイツ語の事態把握をめぐる諸現象について日英語と対照しながら論じたもの,もう一本はドイツ語の心態詞を日本語の終助詞と対照したものである。また,これまでの研究で主に翻訳資料を用いてきたことについて,一度批判的に検討しておく必要性を感じている。この点について,過去の翻訳研究の情報を取り込みつつ,日独語における翻訳方法などについて考察を始めたところである(現在「事態把握と翻訳」というテーマで論文を準備中)。 最後に,初級・中級文法項目の再点検作業も継続的に行っている(これに関連して共著でドイツ語教材を一点公刊)。 進捗状況の評価に関しては,基本語彙調査の進行具合が必ずしも思い通りに進行していないこと,さらにコーパス分析に基づいた文法分析を進めているものの,ドイツ語文法全体との有機的な関連性を構築するに至っていない点を鑑み,「やや遅れている」と判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き研究補助の協力を得ながら,データ整理の作業を続ける予定であるが,研究最終年度にあたる今年度は,既存の初級・中級文法の項目や枠組みを参照し,(日本人学習者にとって有意義な)ドイツ語文法の全体像を念頭に,既存の文法の再検討・再記述を進めていく。最終年度でもあるため,基本語彙の分析ついては,これまでのように愚直に作業を進めるのではなく,ある程度の効率化や内容の簡略化も考える必要があるだろう。また,基本語彙の個別調査を全体的な枠組みとリンクさせて全体のアウトラインを作成する作業を並行して行っていく。 同時に,調査結果・研究結果の発信方法についても検討したい。言語学的な内容を含む日独対照研究などは論文として公表できるが,語彙調査のデータなどは,直接的には論文にはならない。それらのデータは何らかの形で公開したいと考えているが,広く公の使用に供するためには,ホームページでの公開が良いのではないかと今のところ考えている。何をどのような形で公開すべきかという点についてはまだ未検討であるため,今年度の課題となる。語彙的なデータ,そして基本語彙と関連した文法データの公開が中心となる。例えば,①基本形の頻度,②語構成の頻度,③語形の頻度,④語群の頻度(コロケーション含む)などについて,見せ方なども含め,検討していきたい。最終的には,上記目標の「3. 日本語を出発点とした総合ドイツ語文法の(再)構築」へと収斂させていきたい。
|