2016 Fiscal Year Research-status Report
中国語の結果構文に反映された発話者の表現意図の解明:動補構造を中心に
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16K02665
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
丸尾 誠 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (10303588)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 現代中国語文法 / 結果補語 / 動補構造 / 発話者の意図 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は中国語母語話者がそれぞれの結果補語・方向補語を使用する動機づけの解明を目指して、個別の結果用法に内在する中核スキーマを抽出するとともに、カテゴリーを同じくする複数の補語の横断的な用法分析を進めるものである。初年度にあたる今回は現代中国語の結果補語“掉”を主な考察の対象とした。“掉”の表す意味について、辞書や文法書類に見られる記述としては「自動詞の後に置いて『離脱』を表す」「他動詞の後に置いて『除去』を表す」といったものが一般的である。これらに加えて見られる「動作の完遂を表す」用法については南方方言の色彩が強いとされていることもあり、既存の辞書には該当する記述が見られないものの、現在では共通語でも比較的広く使われている。この動作の完遂を表す“掉”の使用には、「量的な概念」との関連を見出すことができる。また、行為の遂行を表すのに“掉”が用いられた場合には、行為者が当該の行為を他者から強いられて(往々にして不本意ながら)行うといったニュアンスが前景化されることになる。 今年度は“V掉”(Vは動詞)の完遂義としての用法に見られるこうしたモダリティ的な側面にも注目しつつ、補語“掉”の用法について考察した。その結果、この完遂義を支える動機づけとしては、「対象の消失」「心理的圧力からの解放」といった要素の存在が挙げられ、“掉”を用いて状態義に言及する場合には、元の状態の喪失という発想から状態変化の実現が表される一方で、程度の甚だしさという観点から、状態変化の実現を表出することが可能であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず初年度にあたる平成28年度は、本研究の目的を遂行する前段階として、結果補語の用例調査が中心的な作業となった。 文法事象に反映される事象間の因果関係には話者の認識が関わっている。中国語でこれを表現する手段の1つである動補構造には抽象義への派生など中国人的な発想が反映されている。結果補語“掉”の用法にも発話者の認識との関連において興味深い現象が見られ、これをコーパスなどの考察を通して分析し、論文としてまとめた。また“掉”が南方方言的な色彩が強いのに対し、北方方言の色彩が強く、口語的であるが故に研究論文も他の補語のものと比べて多いとは言えない“着”の用法についても考察を進めている。こうした作業を通して、個別の語内の各種用法を掘り下げて分析するとともに、複数の補語に見られる類似した用法を比較することにより、語彙研究の成果を各種統語事象に関連付けて、多角的に中国語の結果構文の理論的枠組みを再構築することを試みる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は考察対象をさらに拡張し、中国語の結果補語“好、成、住、完、着”などを用いて表される動作・行為の完成義の解明に取り組む。こうした個別の用法を掘り下げて分析しつつ、複数の補語について置き換えの可否、使用条件の比較、使用動機の相違といった観点から相互の用法を関連付けていく。本課題の研究成果により、理論研究への貢献のみならず、中国語教育において「動詞との組み合わせの相性」という感覚的な説明が用いられることが少なくない結果補語に対する現行の教授法の改善を促すことにもなる。
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Causes of Carryover |
海外(北京)での資料収集の際に要した費用が、当初想定していたほどかからなかったことが主な要因として挙げられる。今後は海外に滞在して調査する期間をさらに長くする、あるいは渡航の回数を増やすといった可能性について検討したい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究課題に関連する書籍の購入費用の補充にあてる予定である。
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