2016 Fiscal Year Research-status Report
チベット・ビルマ語派ルイ語群の未記述方言調査によるルイ祖語の研究
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16K02691
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤原 敬介 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (00569105)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | チベット・ビルマ語派ルイ語群 / 記述言語学 / 方言調査 / 基礎語彙調査 / 歴史言語学 / チャック語 / カドゥー語 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年9月にバングラデシュに渡航し、2016年3月に出版したCak-English-Bangla dictionaryの増補改訂作業に着手し、チャック語バイシャリ方言を中心に数百語の語彙を追加することができた。 2016年11月には中国・広州で開催された第49回国際漢蔵語学会に参加し、タマン語の系統にかんする口頭発表をおこなった。この口頭発表は、5月にビルマ研究会でおこなった発表を改訂したものである。 2016年12月から2017年1月にかけてはビルマ・ラカイン州に渡航し、サック語の語彙調査をおこなうとともに、Cak-English-Bangla dictionaryをサック語の辞書としても使用できるようにするための予備調査をおこなった。 2017年2月から3月にかけて二回にわたりビルマに渡航し、ザガイン管区インドー地方でカドゥー語方言の調査と、ホーマリン地方でタイ・ナイン語の調査をおこなった。カドゥー語の方言調査では、これまで未記述であったモークワン・カドゥー語東部方言の基礎語彙調査と、モーテイッ・カドゥー語基礎語彙調査をおこなうことができた。カドゥー語では一般に有声阻害音が音素的ではないけれども、この地方のカドゥー語方言では音素的であることがわかった。特にモークワン・カドゥー語東部方言においては、接頭辞消失の残滓として、接頭辞が消失したあとの語頭音が有声阻害音であらわれるという現象をつきとめることができた。ホーマリン地方のタイ・ナイン語調査では、かつて調査したカンディー地方のタイ・ナイン語と共通点がおおいけれども、一部の格助詞の語形や、語順に相違がみられることが予備的な調査からわかってきた。 おもな研究成果としては、タマン語の系統を論じた論文のほか、チャック語の諺や民話、マルマ語の会話文資料をまとめたものなどがある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チャック語については、Cak-English-Bangla dictionaryを出版したことにより、バングラデシュのチャック人のみならず、ビルマ側のサック人からも反響がおおきく、今後改訂していくにあたっての方針をかためるとともに、特にサック人で協力してくださる方と知遇をうることができた。 ルイ語群の未記述方言調査については、モークワン・カドゥー語東部方言とモーテイッ・カドゥー語とについて基礎語彙調査をおこない、カドゥー語諸方言の調査でこれまでにしられていなかった特徴をみいだすことができた。また、今後さらに未記述方言調査を継続するにあたり必要な地理的情報をえることもできた。 タイ・ナイン語については、カドゥー語に対する借用語の供給源として調査をする必要があり、今後も継続して調査してくめどがたった。 以上のべたように、これまでの調査経験をふまえて堅実な成果をあげていくとともに、あらたな調査地域でも調査協力者にめぐりあうことができたので、研究はおおむね順調にすすんでいるとかんがえられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もひきつづきCak-English-Bangla dictionaryの改訂作業を継続していく。特にビルマ側のサック語話者のために、ビルマ語訳をつける作業を本格化させる。また、辞書の見出し語が音声記号だけでは現地の話者にとって不便であるので、チャック文字を見出し語として掲載することを計画している。そのために、チャック文字フォントを組版ソフトであるLaTeXであつかうことができるように、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の高島淳教授に依頼し、チャック語TeXを開発していただく予定である。 ルイ語群の未記述方言調査については、ビルマ・ザガイン管区インドー地方とホーマリン地方での臨地調査のめどがたってきたので、今後もひきつづき渡航し、基礎語彙調査を中心とした方言記述を継続する。 2017年度は、バングラデシュやビルマでの臨地調査とは別に、インド・マニプール盆地ではなされていたチャクパ語のうちパイェン語の語彙集についても、その内容を検討していくことを計画している。
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