2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02705
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Research Institution | Kinjo Gakuin University |
Principal Investigator |
河原 清志 金城学院大学, 文学部, 教授 (70511517)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 翻訳等価 / 翻訳イデオロギー / メタファー / 翻訳言語理論 / 翻訳文化理論 / 翻訳シフト / 翻訳ストラテジー / 対照言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、単著で『翻訳等価再考――翻訳の言語・社会・思想』(晃洋書房)という著書を出版した。これまでの「翻訳等価論」に関し、記号論・意味論・言語哲学・コミュニケーション論などの諸学術分野から多角的に検討し、翻訳研究のメタ理論研究をまとめた。 次に、論文として「翻訳シフトと翻訳者の意識/無意識に関する予備的考察」「国際関係における通訳翻訳の文化構築性と社会的役割」を出し、翻訳等価構築の背後にある個々の翻訳者の翻訳に関する考え(翻訳イデオロギー)と翻訳の文体との関係について論じ、また翻訳等価構築が国際関係のなかでどのような政治的意義があるかについて、文化構築性の観点から論じた。 さらに、招聘講演や学会口頭発表として「文学・言語学・言語教育学・キリスト教学の交差領域としての通訳翻訳学」(金城学院大学大学院英文学会)、「E.ナイダの翻訳理論イデオロギー:科学主義と福音主義」(日本通訳翻訳学会年次大会)、「認知言語類型論から見た英文法」(応用言語学実践研究会)、「安倍首相の演説・談話の英日語対訳の等価性と外交戦略」(日本国際文化学会)、「『多文化共生時代』におけるTILT(Translation in Language Teaching)」(応用言語学実践研究会)、「Constructing and deconstructing representations of East Asia through interpreting and translating remarks by the Prime Minister of Japan」(The 2nd East Asian Translation Studies Conference)がある。これらは、翻訳等価性の分析に当たり、学際性の観点から諸学術分野から見た翻訳研究について論じる目的で行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度として、基礎的なデータ作りを開始するとともに、典型的なデータを選んで、予備的研究の内容を随時発表してゆく予定で臨んだ。具体的には以下のとおりである。 (1) 英語の原文と日本語の翻訳との言語テクストの比較対照の基盤となる英語=日本語のパラレル・コーパスを作成する点。これはごく一部の分野について、コーパスの作成ができた。(2) 翻訳者に対するインタビューについては、インタビューを実施するのではなく、すでに翻訳者が翻訳について論じている出版された著作物からデータを分析することに集中した。(3) 言語理論や翻訳理論の先行研究も国内外を問わず多く収集し、本研究の分析に焦点を当てながら、できるだけそれらを再構成し体系化することを意識して検討する予定で進め、この点は予定どおり進んでいる。(4) 途中経過的な研究報告を国内と海外で発表する予定で進め、今年度は日本通訳翻訳学会での年次大会での発表、East Asian Translation Studiesという2016年7月の東京・明治大学で開催される国際学会での発表、いくつかの研究論文の投稿・出版を行った。 本研究の中心的な研究課題は、文学・学術書・ニュース報道の分野について、英語原文と日本語翻訳のペアを多く集め、両者を比較対照し、言語学的手法によって分析を行い、原文と翻訳のズレ(シフト)を具体的に明らかにすることであるが、これについては、文学の分野とニュース報道の分野においてある程度、順調に研究が進展したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)原文と翻訳との言語面の比較対照研究では、翻訳の分野(文学・学術書・ニュース報道など)ごとに翻訳等価・翻訳シフトのあり方が異なる点をさらに明らかにする。また、同じ翻訳分野でも、翻訳者の個性によって訳出語彙・文法・情報配列の総体、つまり文体に違いがあることを明らかにする予定である。分野と翻訳者による翻訳相対性の実態を、具体的なテクスト分析を通してさらに解明してゆく予定である。 (2)翻訳者のインタビューや翻訳論言説の研究では、翻訳者の翻訳に対する意識や翻訳者の役割意識、規範意識、翻訳者としてのアイデンティティなどをさらに明らかにする。そして、これが翻訳テクストとしてどのように翻訳結果に反映されているかの分析もさらに進めてゆく。 (3)翻訳の社会文化史の研究では、インタビューを踏まえて日本の翻訳者を取り巻く社会的コンテクストやイデオロギーを分析することで、翻訳者の翻訳に対する意識の社会的な背景事情を明らかにする予定である。特に今年度扱った政治色の強い文書やメディアテクストの場合、翻訳をとりまく社会状況や政治情勢がどのように翻訳テクストに反映されているか、いかに政府の外交・防衛政策と言語政策とが密接に関係しているかについてさらに解明する予定である。 以上の(1)~(3)を総合することで、(1) 英語と日本語の言語構造の特徴、およびその翻訳テクストにおける現れ方、(2) 翻訳をめぐる社会的コンテクストの翻訳分野による特徴の違い、(3) 翻訳に対する翻訳者・翻訳関係者の考え方や価値観と個々人の文体の違いを明確に説明し、翻訳等価の言語的・社会的な総合的研究を深めてゆくという推進方策を取る。 そのために、積極的に国内外の学会で発表したり、論文投稿をしたりする予定である。
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