2017 Fiscal Year Research-status Report
構文ネットワークによるヴォイスの歴史的・対照言語学的記述研究
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16K02726
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
志波 彩子 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (80570423)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ヴォイス / 構文 / 構文ネットワーク / 非情の受身 / ラレル構文 / 可能 / 自発 / 中動態 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度末に書き始めていた「知覚動詞「見える」の構文ネットワーク」の論文であるが,内容が豊富なため,16ページ以内の規定がある雑誌『日本語文法』への投稿は断念し,再度書き直して,40ページまで書くことのできる雑誌『言語研究』に投稿中である。この論文は,査読の結果修正再投稿となり,現在修正を進めている。 昨年度発表した,「ラル構文によるヴォイス体系─非情の受身の類型が限られていた理由をめぐって─」は,来年度にくろしお出版より, 岡崎友子・衣畑智秀・藤本真理子・森勇太(編)『バリエーションの中の日本語史』として出版予定である。 また,今年度1月には,名古屋大学人文学研究科の『名古屋大学人文学研究論集第1号』に「受身と可能の交渉」という論文を発表し,どのような条件のもとでラレル文の受身の意味と可能の意味が曖昧になり,接近するのか,ということを詳しく論じた。 さらに,ヴォイス関連ではないが,「彼女が幸せになれるかは誰と結婚するかで決まる」というような,A節の値がB節の値によって決まることを表わす構文を依存構文として,この構文が近代日本語においてどのように発生し定着したかということを,他の構文との関連をみながら論じた,「近代日本語における依存構文の発達―構文はどのように発生・発達・定着するのか」という論文を,国立国語研究所論集に投稿し,採用され,現在校正を進めている。この論文は,構文同士の相互関係を考える点で,本研究の「構文ネットワーク」という課題と無関係ではない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度シンポジウムで発表した内容を,来年度4月刊行の 岡崎友子・衣畑智秀・藤本真理子・森勇太(編)『バリエーションの中の日本語史』の中に「ラル構文によるヴォイス体系─非情の受身の類型が限られていた理由をめぐって─」として発表することができた。これは当初の計画通りの進捗状況である。 また,当初は予定していなかったが,『名古屋大学人文学研究論集』にも受身と可能の構文の相互関係について論じた論文を発表することができた。このことにより,ヴォイス体系における各構文タイプの相互関係をネットワークとして描いて明らかにする,という本研究課題の目的を一部達成することができた。 一方で,当初は予定していなかった知覚動詞「見える」の構文ネットワークを記述する論文に相当の時間を費やしているため,スペイン語の中動態の調査になかなか踏み切れずにいる。知覚動詞「見える」は,自発動詞であるため,本研究課題の「ヴォイス」現象とまったく無関係ではないものの,周辺的な現象である。ただし,本研究が考える「構文ネットワークを文法記述に積極的に取り入れる」という理論的立場を広く発信するためには,この論文を発表することが喫緊の課題となっている。 また,間接疑問構文と関係した依存構文の発生と定着を論じた論文を投稿したことも,ヴォイス関連の研究の進捗を遅くしているが,これも構文と構文化という議論に深くかかわっており,非常に間接的ではあるが本研究の課題とも関連していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は,まず『日本語歴史キーワード辞典』の「受身」の項目の執筆を担当することになったため,古代語の受身についての先行研究を整理し,研究補助の学生に集めてもらったデータから受身の特徴を分析したいと考えている。 次に,今年度はスペイン語の中動態の研究に着手し,10月の日本イスパニア学会で口頭発表することを目標としている。スペイン語の中動態についてはかなりの研究の蓄積があるため,この議論を整理したい。また,中動態の中で「可能」の意味が現れることがあるとされるが,これはどのような構造的条件が整ったときなのかをデータを集めて調べたいと考えている。 そして,現在共同研究として「構文ネットワークの可能性」という研究を進めている。このチームで,現代日本語のヴォイスに関わる様々な構文(受身,使役,自他動詞,自発,可能,テモラウ,テクレル等)の相互関係,すなわち構文ネットワークを描きたいと考えている。 また,別の共同研究として他動詞構文の記述研究を進めている。この研究も,当初の計画案には予定していなかったが,ヴォイスの体系を総合的に明らかにするために必要な研究と考えている。来年度も月に1回の研究会を開催し,これを進めて行きたいと考えている。
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Causes of Carryover |
人件費として使用する計画であったが,雇用した大学院生自身の研究進捗状況を鑑み,作業時間を減らしたため,最終的に残額が発生した。 今年度は雇用人数を増やす予定であり,また,英語論文執筆のための英文校正の費用など多くの費用が生じると考えられることから,最終的に予算はすべて使用されると見込んでいる。
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