2018 Fiscal Year Annual Research Report
Historical and contrastive study of grammatical voice description: by means of constructional network
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16K02726
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
志波 彩子 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (80570423)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 非情の受身 / 自発・可能 / 構文 / ラレル / 自然発生 / 自動詞 / 中動態 / 視点 |
Outline of Annual Research Achievements |
古代日本語のラル構文がなぜ中立的に事態を叙述する非情主語受身を持たなかったのか,という問いに対し,ラル構文は西欧諸言語がこの非情主語受身を発達させた領域に自発・可能を確立したからである,という議論をまとめた論文が「ラル構文によるヴォイス体系―非情の受身の類型が限られていた理由をめぐって」(『バリエーションの中の日本語史』くろしお出版,2018年4月)として刊行された。本研究は,自然発生的自動詞の語尾の類推により文法的接辞として取り出されたラルが持つ「自発・可能・受身(・尊敬)・その他」の多義に対し,自然発生の意味と話し手の「視点」がこの多義を生み出していることを述べた。ラル構文は有情者に視点を置き,この有情者に対して行為が自然発生することを述べる構文であるとした。すなわち,有情者に対して自分に意志がないのに,何らかの要因によって自分の行為が自然発生するのが自発,有情者が実現を期待して行えば通常実現する行為が自然発生しないのが不可能(不実現),有情者に対して自分の意志と関係なく他者によって行為が自然発生するのが受身(受影受身)である。一方で,西欧諸言語の中動態は,同じように自然発生の自動詞用法を経て受身を派生させているが,中立的視点で「有情者による変化が実現する」ことを述べる非情主語受身を発達させた。このように,本研究は先行研究にはない発想で古代語のラル文を捉えた非常に独創的な議論である。さらに,この議論を補強するものとして,「受身と可能の交渉」(『名古屋大学人文学研究論集』1,2018年3月)を発表した。 しかし,ラル構文のネットワークについては,尊敬やその他の用法についてもまだ問題が残されている。本課題終了後も,学会等で議論を発展させながら発表していく予定である。
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Research Products
(4 results)