2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K02729
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
池田 幸恵 長崎大学, 多文化社会学部, 准教授 (10315228)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 宣命 / 公卿日記 / 和漢混交 / コーパス |
Outline of Annual Research Achievements |
和漢混淆文は、一般的には、平安時代の女流文学作品に代表される和文と、漢籍や仏典を読み下した漢文訓読文とが混ざり合ってできたものであり、院政期の『今昔物語集』や鎌倉時代の『平家物語』などが、その代表作であると見なされてきた。その中で、本研究は、天皇の和文詔勅である宣命を日本における和漢混淆文の始まりであると捉え、その実態について明らかにしようとするものである。 具体的には、これまでの研究においてほぼ等閑視されてきた公卿日記に残された宣命における和漢混交の様相を明らかにするとともに、その読みを確定し、奈良時代から平安時代後期にかけての宣命を、日本語史の資料として広く利用可能にするため「宣命コーパス」として整備することを目的にしている。 本年度においては、宣命における「漢」の要素の一つとして、漢文助字の「之」字を取り上げ、その使用実態を考察した。日本語の助詞に相当する漢文助字は、続日本紀宣命ではかなりの用例が見られた「而」字や「者」字を含め、三代実録においてはほぼ使用されなくなる。その中で、「之」字のみが「五国史」を通してある程度の用例数があり、また三代実録に至って用例数を増やすという特異な状態を示していた。その要因の一つとして、漢文の下敷きがあると思われる宣命に日本語の助詞「の」とは一致しない「之」字が使用され続けることを明らかにした。 宣命のコーパス化の面では、本年度は公卿日記に残された75詔の宣命をテキストとして入力する作業を行った。これらについては、今後、「五国史」宣命と同様のタグ付けを行っていく予定である。また、先行して構造化を行ってきた「五国史宣命コーパス」については、「続日本紀宣命コーパス」が今年度中に二度目の人手修正を終えた。今後、人手修正で見いだした入力ミス等を訂正し、三度目の人手修正を経て、インターネットでの公開に進む予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究においては、『小右記』や『中右記』などの平安時代の公卿日記に残された宣命における「漢」の要素を明らかにすること、奈良時代から平安時代後期までの宣命をコーパス化することにより、従来あまり顧みられることのなかった宣命が日本語史の資料として広く利用されるようになることを目的としている。その第一段階として、本年度は公卿日記に残された宣命のテキスト入力を終えた。今後は、「五国史」宣命の読みを参考にしながら、公卿日記の宣命の読みを確定する作業に進む予定である。 また、本年度は、公卿日記の宣命の中でも、即位や立体子などの定型化の見られる宣命について取り上げ、それらに使用されている語彙の中から、訓読と音読の両方の可能性のある語彙の抜き出しを行った。今後は、これらの語彙が同時代の他の資料でどのように読まれているかを検討することによりその読みを確定するとともに、定型化の見られない他の宣命群にも視野を広げ、同様の検討を行っていく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
基本的には当初の予定通り、研究を進めていく予定である。宣命語彙の読みの確定のために、平安時代の訓点資料等を入手するとともに、和文や和漢混淆文のコーパス類も広く利用していく予定である。 また、公卿日記の宣命のコーパス化については、国立国語研究所の通時コーパスプロジェクトととも密に連携を取り、アドバイスや助力を求めながら、作業を進めて行きたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
東京出張等に旅費を使用する予定であったが、国語研究所のプロジェクトでも旅費が支給されることになり、当初予定していたより使用額が大幅に減ったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度の物品費等の一部として使用する予定である。
|
Research Products
(1 results)