2018 Fiscal Year Research-status Report
口語資料に基づいた日本語文法の変化に関する認知言語学的研究
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16K02739
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
尾谷 昌則 法政大学, 文学部, 教授 (10382657)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日本語 / 接続詞 / 文法化 / 語用論 / 副詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、言語変化のメカニズムを解明すべく、(1)昭和初期の言語資料を大量にスキャンおよび電子データ化し、そのデータに基づいて、(2)口語文法の変化に関して定量的な観点から4つの事例研究を実施した上で、(3)Langacker(2000, 2008)の動的用法基盤モデルを改良した類推ネットワークモデルを用いて、その言語変化を記述・分析する、という3つの目的を設定している。平成29年度は(1)の作業として、『キネマ旬報』の復刻版を購入し、データの取り込みを行ったが、OCR処理において誤認識が多かったことと、本研究で分析対象にしていた語彙の変化が戦後に起こっているらしいことが判明したため、戦後直後のデータ収集に努めた。具体的には、29年度に購入した『世界』(岩波書店)という古雑誌を約35年分と、対談集などの市販書籍(約40冊)を取り込みし、OCR処理するという作業を行った。作業が完了したのは25年分のデータで、得られたテキストデータはおよそ50MBになった。 これに加えて、29年度より分析していた「なので」の接続詞化について、これまで研究した成果をまとめて、2018年10月の日本語学会にて発表した。さらに、2018年12月には日本語用論学会にて、本研究で収集した用例データに基づいて、「なので」が接続詞化した語用論的要因について発表した。さらに「案外に/と」の用法変化についても研究を行い、こちらについては2019年5月に『法政大学文学部紀要』へ投稿する準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で取り上げる予定であった4つの表現のうち、現在研究が進んでいるのは接続詞化した「なので」と副詞「案外に/と」の2つである。できれば、30年度のうちに3つ目まで分析を進めておきたかったが、それが出来なかったため、進捗状況としては「やや遅れている」という判断である。 遅れた理由は様々あるが、当初データ元として見込んでいた戦前の古雑誌(復刻版)の購入費用が予想以上に高く、十分なデータ量を確保できなかったことが挙げられる。しかし、問題はそれだけではない。古雑誌で、しかも復刻版ゆえに文字がややぼやけた印刷になっていたため、スキャンした際にOCRの精度がかなり低く、綺麗に認識できた(=分析データとして問題なく使用できる)箇所が思いの外少なかった。この点もデータ不足を招く要因になった。加えて、その誤認識を修正するために膨大な時間を費やしたが(もちろん手作業である)、一つ一つ確認しながら修正する作業は時間がかかるため、大きな効果は得られなかった。この点は、古雑誌の購入費用に予算を使いすぎたため、データ入力補助のアルバイトを十分に雇用できなかったという事情もある。 もう一つの理由は、本研究で取り上げる予定であった副詞化した「基本」の用例が、思うように収集できなかったことである。副詞としての「基本」が口語的表現であることは承知していたが、使用データがこれほど見つけにくいとは、予想外であった。おそらく、「基本」の副詞化を研究するためには、ごく最近の用例を探さなければならないのだろうが、本研究は昭和来において変化した表現を取り上げる予定でデータ収集を行ってきたので、副詞の「基本」を研究対象から外さざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
古雑誌の入力はほぼ完了しているので、あとは本研究で収集したデータを用いた事例研究を実行するのみである。接続詞化した「なので」についてはもう十分な研究成果が出ていると判断できる。2019年5月に投稿する予定の論文で最後にしたい。「案外に/な」については、同じく2019年5月に紀要論文を提出する予定である。「っていうか」については、今後データを検索して用例収集から始めなければならないが、副詞化した「基本」のように十分なデータが収集できない危険性もあるため、本研究で収集したデータの範囲内でその言語変化が観察可能な、別の表現に研究対象を変更することも視野に入れ、柔軟に対応していきたい。すでにいくつか候補となる表現があるが、その中でも、本研究ですでに扱っている「案外に/と」と似たような現象にしたいと考えている。具体的には「自然に/と」などである。
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Causes of Carryover |
年度末の3月に、京都工芸繊維大学で開催された動的語用論研究会に参加したのだが、その際の旅費などを全て処理すると年度予算が大幅に足りなくなるため、一部を翌年度の予算から処理してもらうことにしたため。決して、使途が無くて余ったわけではない。
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Research Products
(2 results)