2019 Fiscal Year Research-status Report
明治期の中等教育・高等教育と近代学術用語の伝播・定着との関連性に関する研究
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16K02741
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
真田 治子 立正大学, 経済学部, 教授 (90406611)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日本語学 / 計量言語学 / 語彙論 / 結合価理論 / 哲学字彙 / 近代語研究 / 井上哲次郎 / 学術用語 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度も、本研究課題の主たる調査対象である『哲学字彙』に関連した資料の調査を進めた。明治時代初期から医学、工学、数学、鉱物などの分野で次々と専門語彙集が出版されたが、それらを比較していくと『哲学字彙』は広い分野で近現代の日本語に長く影響を与えたことがわかる。これらの専門語彙集は、日中の学術語彙の交流を背景として、当時の学問分野で訳語を統一させたいという動きによるところが大きいが、一方で、欧文の学術書を読むための実用的な辞書としての役割もあったと考えられる。以上の学術語彙の広がりとその研究は俯瞰的な視点から「専門語彙集の語彙」としてまとめた(『近代の語彙』(共著)東京:朝倉書店所収。2020年度刊行予定)。この他、明治時代の医学用語についても引き続き調査を行っている。医学用語については、複合語の原語を複合語の日本語(漢語)に直訳する形式でオランダ語やドイツ語からの翻訳が進んだことが観察されており、蘭学やドイツ医学を輸入したという学術上の必要性の他に、オランダ語、ドイツ語、日本語(漢語)がいずれも複合語をつくりやすいという言語学的な特徴もその背景にあったと考えられる。また大学医学部を経ずに医師となるための国家試験が日本語で出題されていたことが、日本語の医学専門書に収録されている特定の用語を定着させる、実用的な要因になったと考えられる。これらの調査結果の一部は「明治期におけるドイツ科学用語の受容」としてまとめた。(『ドイツ語と向き合う』(共著)東京:ひつじ書房所収。2020年度刊行予定)。この他、日本語の語彙の分析方法の開拓の一環として、文の中での語の長さの分布と文の構造との関係など基礎的な研究も並行して行った。これらの成果は、共著の著書3件及び国際学会での発表1件で2020年度以降に順次発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度も明治期の学術用語の調査の他、明治期の学生の日記についても、当時の勉学の状況を知るために調査を進めている。語彙と文の構造に関する計量言語学的モデルの研究についても順調に調査結果が得られており、共著の著書3件及び国際学会での発表1件の成果発表が既に決定していること、うち2件は出版社の都合で刊行が年度をまたいでしまったこと(2020年度以降に報告予定)から、研究計画全体も順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度も引き続き、本研究課題の主たる調査対象である『哲学字彙』の学術用語と、明治初期の高等教育で教科書として使用された洋書との照合や、編者の翻訳・執筆した著作物との関係について調査を行う。また語彙の計量的分析手法の開発についても引き続き現代日本語のコーパスや結合価辞書を使った解析を進める。共著の著書3件及び国際学会での発表1件の成果発表が既に決定しているが、それ以外の成果についても順次Journal of Quantitative Linguistics(国際計量言語学会・学会誌、インパクトファクター付)や論文集『近代語研究』(査読有)の次巻などへの投稿に向けて準備を行う。
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Causes of Carryover |
国際学会参加の際、現地で支払う旅費を日本円に換算する際に、換算レートの関係で日本円相当金額をやや多く見積もっていたため、若干の繰越額が生じた。これによる次年度の使用計画に大きな変更はないが、より正確に支出を見積もるようにしたいと考えている。
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