2016 Fiscal Year Research-status Report
述語体系の変化と文法カテゴリーに関する研究-古代語を中心に-
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16K02742
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
仁科 明 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (70326122)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 述語体系 / 非現実性 / 「べし」 / 希望表現 |
Outline of Annual Research Achievements |
古代語の述語形式は、一つの形式がさまざまな文法カテゴリにわたる用法を持ち得、一方で、同一の文法カテゴリに属するものとして扱われる用法が幾つかの論理で表されることもある。今年度は、その両面をとらえるべく、「べし」と広義の希望表現(意志・希望・願望にかかわるものをこう呼んでおく)に焦点を当てて研究を進めた。 「べし」は典型的な多義の形式であり、いくつかの文法カテゴリに渡る用法の広がりを持つ。上代の用例を対象とし、「べし」の用法を再整理した上で、研究代表者の考える述語体系に関する位置づけを出発点に、説明を試みた。「べし」は非現実事態に対して積極的に保証を与えつつ述べるような形式(非現実事態-確言)の形式であるととらえられ、いくつかの意味カテゴリに渡り、複雑に見える意味の広がりは、保証の背景の様々によるものと考えられるとの理解に達した。今年度はこの点について、論文をまとめ、公表した。これまですすめてきた研究とあわせて、現実/非現実による述語形式の体系の整理と、文法カテゴリとの関係の理解も深まったと考えている。 古代語-とくに上代語-では広義希望表現の形式が多い。整理の試みはなされてきたが、意見の一致は見ていないようである。そこで、広義の希望表現を、希望を表す論理の違いによっていくつかに分けることを考え、調査と先行研究の検討、考察を薦めている。この点については、中間段階にとどまっており、論文化にはいたらなかったが、その成果の一端を研究会で発表を行った(「(広義)希望表現の諸相-万葉集の例-」文法史研究会、2017年2月23日、国立国語研究所)。 文法形式と文法カテゴリとの関係について、今後につながる洞察を深められたのではないかと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、研究代表者がこれまでおこなってきた研究を踏まえて、課題とした問題全般にわたって、十分に考察を深めることが出来たと考えている。ただし、他の研究の企画(本研究と関連してはいるが、方向が異なる)をすすめる必要から、本研究に割ける時間と労力が削られた点、申請時の計画でアルバイトを雇用しての資料整理なども考えていたことについて、当初の目論見が外れ、予定通り動かすことが出来なかった点が反省される(そのために、当初予定していたよりも調査・研究の進展がとどこおってしまった)。具体・個別の点については、以下の通りである。 当初考えていた対象のうち、上代の「べし」については、まだ論じ残した論点はあるが、良好な進展であると考える。事実に関しても学説史に関しても、十分な検討を行い、考察を深めることが出来た。また、前年度まで考えてきた上代語の述語体系に関する考察との関係づけを行うことも出来、学説史の理解も深めることが出来た。「べし」の幾つかのカテゴリにわたる複雑な用法分化の考察を通して、各意味カテゴリに関する理解も進んだと考えている。 (広義)希望表現については、「べし」と並行して調査を始めてはいたが、年度の後半に集中して調査を進めた。上代語を対象とし、かつ、通常よりも研究対象とする形式の範囲を広くとったため、用例調査、先行研究の両面で、基礎的調査にかなり手間取った(ここで、上述の要因にもとづく調査の遅れは打撃であった)。全体に一応の見通しを得るにはいたっており、これまでの研究との接続や、中古以降の状態への変化の説明もまだ出来たとは言えない状態ではあるが、中間報告的な発表はおこなうことが出来た。遅れてはいるものの、こちらについても、それなりの進展を見たと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】欄に記したとおり、ここまでの研究は、多少の遅れはあるものの、順調に進展している。研究の進め方については、今後も、今年度と同様の方策によって、研究を進めたいと考える。ただし、今年度はうまく運用出来なかったアルバイトの活用を積極的に行いたい。そのことによって、基礎作業を効率化できるのではないかと考えている。 内容的にも、これまでの研究と今年度の研究を踏まえて、発展させることを考えている。「べし」の研究からは、モダリティの形式において、「証拠性」や「可能性/必然性」がしばしば問題にされてきている(現代語の研究でも仁田義雄氏は「概言のモダリティ」を「推量」「蓋然性判断」「徴候性判断」に下位分類する)が、これがなぜなのか、といった問題について、考察を深めたい。また、昨年度、調査と考察を始めた「(広義の)希望表現」に関する議論については、個々の形式の記述と説明を行うことはもちろんだが、意味カテゴリと文法形式の関係一般への考察につないでいきたい。今年度の研究で、「希望」という意味は、それを表す手段が多様であり得ることが確認出来ていることが足がかりになるはずである。 このように、事実の記述と説明をすすめていく一方で、記述に必要になる概念の根拠についての考察も行っていく予定である。また、ここまでに得られた知見を踏まえて、研究代表者が現在までに行ってきた研究を見なおす作業も行っていきたい。
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Causes of Carryover |
今年度、申請額に対して残額が生じてしまったのは、人件費にかんして、予定通りに支出が出来なかったことが大きい。申請時には、研究のための基礎調査その他で、院生アルバイトの積極的な活用を行って研究を進めることをを考えていた。だが、今年度はその目論見が外れ、学生を活用することが出来なかった(ただし、その部分は、研究代表者自身の作業等によって補っている)。また、他方面(具体的な費目としては物品費)への支出の必要が生じたこともあって、支出の予定を変更せざるを得なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後は支出と研究の進め方を考えなおすことによって、予定通りの執行を行っていく予定である。とくに、今年度問題になった上記の人件費の支出(院生アルバイトの基礎調査への協力)については、今年度の問題を解消する見通しも得ている。来年度以降は積極的に活用することを考えている。
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Research Products
(1 results)