2016 Fiscal Year Research-status Report
類をなさない派生接辞の研究: 英語のa- の定着・衰退・拡散
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16K02754
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
長野 明子 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (90407883)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 英語学 / 派生形態論 / 接頭辞 / 語形成規則 / 文法化 / 生産性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、2012年~2015年に研究代表者が行った科研費研究課題「語彙素単位の形態論に基づく派生形態論の研究」(課題番号24520417)の中で行った形容詞派生の研究を、形容詞派生接辞のひとつとされる接頭辞a-に注目して深化させることである。接頭辞a-は、英語の他の形容詞派生接辞と比べて特殊であり、類をなさない接辞であるといえる。特殊性の1つ目は、場所の前置詞からの文法化によって発達したという点、2つ目は、派生されるa-形が、英語の派生形容詞としては例外的に叙述用法しかもたないという点である。また、3点目として、a-形の中には、-lyのような接辞を付けることなくそのままの形で副詞としても使えるものがかなりある。今年度の研究では、まず、Nagano (2016) において、① Nagano (2014)で提案した前置詞on, inから接頭辞a-への文法化のプロセスを精査し、文法化の終点としての接頭辞a-が対応する範疇には、Pred (Baker 2003) だけでなく、Path (Svenonius 2010) もあることを論じた。また、② 文法化によってPredもしくはPathに相当するa-が定着したのち、後期近代英語期において「a- を動詞に付加して分詞的形容詞を派生する語形成規則」が成立したという仮説を提案した。さらに、長野 (2016) では、③ a-の生産性というこれまで注目されてこなかった側面に光をあて、その通時的な変化を明らかにした。この接辞は、availabilityという質的概念としての生産性とprofitabilityという量的概念としての生産性を区別するべきであることを示す好例であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記した研究実施計画によると、今年度は、接頭辞a-に関して明らかにするべき4つの研究課題 Q1-Q4のうちの3つについて、関連文献の調査を行うことと電子コーパスでの調査を行うことを挙げている。結果としては、文献を調査するだけでなく、3つの問題に対して具体的な仮説を提案することができる程度まで研究を進めることができた。ただし、コーパス調査には思ったほど時間を費やすことができなかった。 また、本科研課題の計画には含まれていなかったのだが、方言要素としてのa-を考える中で飛躍的に進んだテーマがある。それは日本語博多方言の文末詞に関する研究である。 これらを総合するに、本研究は「当初の計画以上に進展している」と判断してよいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 電子コーパスもしくはLiterature Onlineでのデータ検証に時間をかけ、Nagano (2016)および長野 (2017) での仮説を厳密に検証していく。また、生産性の概念を文献にあたって整理し、その中でa-の特殊性を論じる。 (2) a-は、現代英語ではアメリカ南部方言で最も生産的である。この側面について考えていくため、英語の方言学の知見を日本語方言学の知見と比較して整理したい。 (3) 上記のように、本研究課題は当初の計画以上に進展しているため、接頭辞a-と対照言語学的に関連する日本語の方言形態素についても研究を進める。具体的には、日本語博多方言のアスペクト形態素トウ・ヨウなどである。
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Causes of Carryover |
研究資料の購入が予定していたほどスムーズに進まなかったためである。また、パソコン、スキャナー、プリンターその他の機器も購入を予定していたが、機能に問題はないため購入を見送った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
英語の派生形態論関係の資料を取りそろえるとともに、英語方言学、日本語方言学関係の資料も本研究費で購入する。また、次年度は方言フィールドワーク(方言調査)にも行く予定であり、そちらでも経費を使用する。
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