2018 Fiscal Year Research-status Report
談話における焦点化構文の総合的研究ー統語論と語用論の棲み分けに関する考察
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16K02759
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Research Institution | Joetsu University of Education |
Principal Investigator |
加藤 雅啓 上越教育大学, その他部局等, 特命研究員 (00136623)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ガ分裂文 / ハ分裂文 / 関連性理論 / 認知効果 / 処理労力 |
Outline of Annual Research Achievements |
文法と談話という2つの領域は互いに独立した領域と考えられてきたが、人間の言語運用の場面では、文法による制約と談話からの要請との軋轢が文法体系の再構築を迫る圧力となる事例も少なくない。本研究は文法と談話の多様な関わり合いの具体的事例として焦点化構文を取り上げ、文法による統語的制約に対して、話し手・聞き手・場面という語用論的要因からの要請がどのように関わっているか、いわば文法と談話の接点の姿を明らかにしようとする試みである。 平成30年度は、日本語のハ分裂文、ガ分裂文を取り上げ、前年度と同様、[1] 文献による理論研究、[2]言語資料の収集、[3]データベース作成の三つの方法によって研究を進めた。 [1] 文献による理論研究では,関連性理論の観点から日本語分裂文が談話内で果たす談話機能と関連性理論との関わりを検討し、先行文脈との意味的つながり、もたらされる認知効果、及び処理労力との関連性を明らかにした。さらに想定から導かれる論理形式と語用論的推論との関係を明らかにし、日本語分裂文に関する推論メカニズムに関する仮説を提案した。とくに日本語のハ分裂文、ガ分裂文のコード化された意味と推論による意味を考察し、焦点化構文に伴う総記的含意とその却下可能性を精査した後、談話における焦点化構文の解釈に関わる統語論的制約と語用論的推論過程のかかわりについて分析を行った。 [2]言語資料の収集については、英字新聞、英米文学、映画のスクリプト、及びコミック等からガ分裂文,ハ分裂文,it分裂文、wh分裂文などの用例を収集した。 [3]データベース作成については,[2]で収集した用例をキーワード検索ができるように加工して、種類ごとに分類を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画は(1)研究代表者の手術,及び(2)外国研究機関との再調整のため遅延した。研究代表者は2018年8月に右足親指の強剛拇指手術(骨切り術:八潮中央総合病院)を行い,術後3ヶ月間は歩行が不自由であったため,資料収集のための国内出張が実施できず,さらに,9月に予定していたアイルランドトリニティカレッジダブリンでのit分裂文,wh分裂文についての調査が実施不可能となった。これら当初予測できない理由で研究計画が遅延した。
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Strategy for Future Research Activity |
統語論と語用論の棲み分けの妥当性を明らかにするため、平成30年度に十分に実施できなかった日本語分裂文について、認知言語学の観点からは、メトニミーリンクによる語義の拡張、パートニミー・トポニミーと 日本語分裂文の関係を詳細に検討し、メトニミー的認知プロセス、及びメトニミー的推論の観点から、日本語分裂文に関わる認知言語学における推論メカニズムを考察する。機能文法の観点からは、「有標構文は処理するのに労力がかかり、これに見合う効果を果たさねばならない」という分析と「文の適格性は統語論的制約と語用論的条件に基づいて決定される」という議論を検討し、日本語分裂文に関する統語論と語用論の棲み分けという観点の可能性を考察する。 これらの分析結果を総合的に検討し、日本語分裂文が持つ談話機能、及び語用論的機能 の本質的な特性とその存在意義を明らかにし、談話における日本語分裂文の認知プロセスと推論メカニズムを総合的にとらえ、これを明示的に解明する。 平成28年度、平成29年度の研究成果を整理・総括し、それらを踏まえたうえで、さらなる深化・進展に努める。具体的には、上記各年度の[1]、[2]、[3]から得られた研究成果を認知言語学、関連性理論、及び機能文法の観点から総合的、かつ、統合的に検討し、英語分裂文、右方移動構文、日本語分裂文の統語的制約、認知プロセスと推論メカニズムの妥当性を検証し、談話における焦点化構文に共通する一般化された推論メカニズムと認知語用論的原理の解明を行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初計画は(1)研究代表者の手術,及び(2)外国研究機関との再調整のため遅延した。研究代表者は2018年8月に右足親指の強剛拇指手術(骨切り術:八潮中央総合病院)を行い,術後3ヶ月間は歩行が不自由であったため,資料収集のための国内出張が実施できず,さらに,9月に予定していたアイルランドトリニティカレッジダブリンでの調査が実施不可能となった。これら当初予測できない理由で当初予定していた国内出張,及び外国出張を実施することができず,次年度使用額が生じた。 本年度は,昨年度実施できなかった,国内出張,及び外国出張を8月に実施し,研究遂行に必要な文献,及び言語資料を収集する計画である。
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