2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K02766
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大森 文子 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (70213866)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 秀樹 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (30191787)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Wilfred Owen / Shakespeare / イメージスキーマ / 概念メタファー / 感情 / Sonnets / Robert Plutchik |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、20世紀の戦争詩人Wilfred Owen の詩やShakespeareの作品を主たる研究対象として、認知詩学の見地から考察した。Owenについては “S. I. W.” という詩を研究対象とし、戦時下の兵士を取り巻く物理的、社会的環境と、その環境が兵士の心理と行動に与える影響に着目しながら、詩の主人公の兵士にかかわる描写から読者が読み取る意味の構造を、イメージスキーマや概念メタファーの観点から考察した。Shakespeareの作品分析については、まず、「人の心と空模様:シェイクスピアのメタファーをめぐって」と題する論文でSonnetsやRomeo and Julietを観察対象とし、<気象>によって<心>を理解するメタファー写像について考察した。愛する人を<太陽>に喩えるメタファーにより、喩えられた人物の多様な側面が構造的に表現されること、その人物に対して抱く多様な感情がそのメタファー写像の帰結として導き出されることを論じた。「喜びと悲しみのメタファー」と題する論文では、Sonnetsの詩群における喜びと悲しみの感情を表すメタファーに着目し、感情についての心理学研究の権威であるRobert Plutchikの研究成果を援用しながら、喜びと悲しみの感情が、財産、饗宴での食事、太陽光という観点からメタファー写像を通して描かれる表現例を考察し、Shakespeareが表現する愛の喜びや悲しみが切実なものとして読者の心に響くのは、生命維持のための資源の獲得と喪失という、命に関わる切実な事態に起因する感情に喩えて描かれているからだということを論じた。学会発表では、研究代表者の恩師であり元大阪大学文学部教授の藤井治彦先生の没後20年を記念して開催された阪大英文学会シンポジウムにおいて、研究代表者の認知詩学研究に多大な影響を与えた藤井先生の教育と研究について発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、英米詩人の作品に見られるメタファー表現群の構造を分析し、メタファーの成立の背景となる認知メカニズムを共時的構造と通史的連続の双方の観点から解明することであるが、今年度は、4月に突然病気になり緊急入院して手術を受け、退院後自宅療養を経て職場復帰した後もリハビリを続け、万全の体調に戻るには半年の時間を要したため、年度の前半は研究の時間も思うように取れず、力を注ぐこともできなかった。年度の後半には、特にShakespeareの作品群の分析に力を入れ、やや遅れながらも本研究課題の目的に沿った研究を進めることができた。よって全体的に見ると「やや遅れている」という評価になる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、Shakespeareの時代(17世紀)から現代にいたるまで射程を広く取り、さまざまな詩作品を対象として、メタファー成立の背景となる認知メカニズムの解明に向けて考察を深める。研究分担者を中心とした翻訳グループでKay and Allan著のEnglish Historical Semantics (2016)の翻訳作業を進展させる。
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Causes of Carryover |
(理由) 「現在までの進捗状況」の欄で記した通り、本年度前半は病気療養と職務遂行を並行しておこなったため、研究が思うように進まず、計画していた書籍購入や国立国会図書館等への国内出張を見合わせた。また、研究代表者、研究分担者を含む4名のグループの所属校で持ち回りで年6回開催している歴史的意味論研究会において、愛知教育大学で開くことになっていた回を大阪大学言語文化研究科で開催した。 (使用計画) 次年度は研究分担者が連合王国に出張し研究することを予定しているので、その旅費や資料収集の費用に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)