2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K02766
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大森 文子 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (70213866)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 秀樹 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (30191787)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Wilfred Owen / Shakespeare / 松尾芭蕉 / 感情 / メタファー / オクシモロン / メトニミー / 連句 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ShakespeareやWilfred Owenの作品を主たる研究対象として、認知詩学の見地から考察した。Shakespeareの作品については、Sonnets や Romeo and Juliet における〈太陽〉の概念領域から〈心〉の概念領域へのメタファー写像について考察し、シェイクスピアの〈太陽〉のメタファーは対象の眩い美しさを賛美し、幸福感を表現するという肯定的な意味だけではなく、危険、気まぐれ、容貌の衰えなど否定的な意味をも表し、メタファー写像の帰結として多様な感情が導き出されるということを論じた。Owenについては、第一次世界大戦の戦地に赴いた兵士の苦難を描いた“Storm”と題する詩を分析の対象とし、この詩の意味の構造、およびそこに作用しているメタファーやオクシモロンの働きについて考察した。その際に、この詩に出現した諸概念を扱ったOwenの別作品(“Anthem for Doomed Youth,” “Smile, Smile, Smile,” “Strange Meeting,” “Spring Offensive,” “Apologia Pro Poemate Meo,” “Beauty,” “The Last Laugh,” “S.I.W.,” “Dulce et Decorum Est,” “I saw his Round Mouth’s Crimson”)も並行して分析し、対比するという手法をとった。 さらに今年度は、英語メタファーの認知詩学分析の手法を日本文学にも応用し、連句(俳諧の連歌)にも注目した。連句が制作される場を文芸共同体のメンバーが構成する「座」と捉え、座に連なる人々が詩的談話を重ね、一つの作品に結実させていく様子を認知詩学の観点から観察した。松尾芭蕉と向井去来、野沢凡兆による歌仙「夏の月の巻」(『猿蓑』巻之五所収)の初折 18句を分析対象とし、メタファーやメトニミーといった認知プロセスが連句の共同制作者間の詩的談話に果たす役割について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、研究代表者が所属する大学全体に関わる重要な職務を担うことになり、研究時間が制限されたことに加え、職場の研究棟が改修工事のため閉鎖され、研究代表者、研究分担者の研究室が大学内の別キャンパスへ移転となった。引っ越しが11月に行われ、その前後の数か月間は移転準備と後片付けに追われたため研究時間が大きく削がれ、また多くの重要な研究資料を段ボール箱詰にしたため、物理的にも研究環境が整っていない状態での研究を余儀なくされた。 また、今年度は、研究代表者が同居していた家人(母)の病状が年度初めから悪化の一途をたどり、7月に入院し、闘病の甲斐なく8月に死去した。自宅での介護、病院での付添い、死後の諸手続きに時間と体力を著しく取られ、長期間、研究の時間を思うように取れず、力を注ぐこともできなかった。また、研究代表者のこの状況に対応するため、冒頭に記した職務に関して共同で任務にあたっている研究分担者にも負担の一部を強いることになり、分担者の研究時間にも影響を与えてしまった。年度の終盤にようやく本格的な研究態勢に入ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、Shakespeareの時代(17世紀)から現代にいたるまで射程を広く取り、さまざまな詩作品を対象として、メタファー成立の背景となる認知メカニズムの解明に向けて考察を深める。研究分担者を中心とした翻訳グループでKay and Allan著のEnglish Historical Semantics (2016)の翻訳作業を進展させる。
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Causes of Carryover |
(理由)「現在までの進捗状況」の欄で記した通り、本年度は公私ともに研究の進行を妨げる要因が多く、研究が思うように進まず、計画していた書籍購入や国立国会図書館等への国内出張を見合わせた。 (使用計画)今年度は、昨年度に収集する予定であった研究資料を購入し、研究環境を補充する予定である。また、研究分担者を中心とした研究グループで進めている翻訳作業が終盤を迎えているので、打ち合わせ会議のため、研究グループメンバーが属する愛知教育大学等への国内出張を予定している。
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