2016 Fiscal Year Research-status Report
ミニマリスト・プログラムにおける文生成コンピュータプログラム構築と統語理論の開発
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16K02769
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
Ginsburg Jason 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (80571778)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 マスミ 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (10209653)
寺田 寛 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (90263805)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 統語理論 / コンピュータモデル / 樹形図 / 併合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主な目的はミニマリスト・プログラムの最新の統語理論を検証するためのコンピュータプログラムを構築することである。 海外研究協力者のSandiway Fongがhtml形式で分かりやすい樹形図を自動的に形成し表示するプログラムを開発し、大阪教育大学のサーバを利用して一般公開した。本研究対処のコンピュータプログラムはこの樹形図の機能を利用している。そして、一般公開により、他の研究者は簡単に利用することができる。 生成理論のコンピュータモデル構築を我々が押し進めたことが平成28年度の主たる成果の一つである。特に、Chomsky (2013,2015)の提案する自由併合(free Merge)と呼ばれる統語操作(集合併合と対併合)をコンピュータプログラムに取り入れることに成功した。自由併合を利用すると一つの文を生成するために、無限の数の構造を排除する必要があるという重大な問題が生じる。しかし、自由併合に制限をもうけることにより、非文法的な英文を排除し、生成可能な文を特定することができた。自由併合を利用すると以前使っていた多くの統語上の制限を無くすことができるので利点が多い。現時点で所有構文(例えばmy friend, the friend of mine)の生成に成功した。特にdouble genitive(二重所有構文)では被所有者(possessee)が通常の位置に現れないため、この構文の実際の構造はどうなっているのかという疑問が生じる。例えば名詞句のmy friendにおける所有形のmyの後に現れるfriendは二重所有構文のthe friend of mineでは所有形のmineの前の位置に現れる。このような構造を本モデルで説明することに成功した。これから多くの種類の文のモデル化を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度は、データ収集と考察を行う予定であった。学生の研究補助者に依頼して、寄生空所構文の例文データをある程度集めることができた。中間構文のデータも集める予定だったが、これができなかったので予定より遅れた部分もあった。収集されたデータを考察し、コンピュータプログラムに取り入れる予定だったが、モデル構築に時間がかかってしまい、研究の予定に遅れが生じた。 また平成28年度は、コンピュータプログラム作成を主に行う予定であった。この一部をなすモデル構築はかなり進めることができた。本プロジェクトを始める前にすでに構築したコンピュータモデルでは、主に素性照合の制限などをもうけることで文の生成ができるようになった。しかし、最近の統語論研究(Chomsky 2013, 2015など)では文生成は自由併合操作と言語に特有でない第三要因原理にしたがって行われる。こういう自由併合を取り入れると素性照合の多くの制限を取り除くことができるため、従来のモデルを根本的に再構築する必要があった。自由併合を実施すると文の派生が無限ループに陥るという大きな問題点があったが、海外研究協力者Fongと協議を進めた結果、深さ優先探索のプログラミングアルゴリズムを利用することにより、この問題を解消することに成功した。名詞句(主に所有構文)をモデルに取り入れた。今後さらに多くのデータのモデル化を行う予定である。 生成コストの研究を当初は予定していた。現時点で、モデルは生成コスト(併合操作や素性照合の回数)を計算することができるが、この計算の仕方や意味に関して考察する必要がまだある。 平成28年度に研究成果を公表することを予定していた。それゆえ、平成29年4月に行われた日本英語学会国際春季フォーラムで英語の所有構文について発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、コンピュータプログラム作成と問題解決、データ収集と考察、そして研究成果公表を行う予定である。 コンピュータプログラム作成に関して、最新の統語理論の研究に基づいて自由併合を用いた統語計算方法を取り入れ、言語を制限している普遍的な(言語特有ではない)制限は何かという質問の答えを探る。以前には取り込んでいた次のデータをこの新しいモデルに取り入れる:Chomsky(2001)の多重一致現象に関連する虚辞構文、Chomsky (2008) の島現象と関連する疑問詞疑問文、Sobin (2014)の主題化・摘出関連文、Pesetsky & Torrego (2001)による補文標識・痕跡効果、同一指示関係を含む文(Kayne 2002)、難易構文(Chomsky 1977)、関係節(Gallego 2006)。データのモデル化に伴い、新たな問題が生じ、問題解決に時間がかかる可能性がある。対策として、分担者(松本マスミと寺田寛)と海外研究協力者のSandiway Fongと頻繁に打ち合わせを行い、対策について話しあう。また、Fongと別々にモデルを構築することによりモデルのアウトプットや問題点を比較しながら、問題解決を行う。 データ収集と考察について、昨年度と同様に本年度も、研究補助を学生に依頼して、主要論文の例文データ(中間構文と寄生空所構文)をファイルに入力して、そのデータをどのようにモデル化を行うのかを考察する。 本年度も、研究成果を公表する。5月末に行われる13th Workshop on Altaic Formal Linguistics で本モデルをどのように応用すれば、日本語の関係節の構造を説明できるのかについてポスター発表をする予定である。また、他の国際学会に応募し、論文作成を行い、学術雑誌に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額として351,681円が発生した。予定物品費368,000円に対して実際に636,035円と25,704円その他)を支出した。研究のためのコンピュータや関連費用が必要であったため、物品には予定より多くの研究費を使用した。予定旅費686,000円に対して77,580円を使用し、予算に余りが出た。海外研究協力者Fongは当該年度サバティカル休暇で日本に来ていたため研究打ち合わせのための旅費を使用する必要がなかった。また、当該年度は、学会発表を行う機会がなかった。予定の46,000円の人件費に対して9,000円しか支出しなかった。これは、研究補助を依頼した学生がそれに費やせる時間が少なかった上に、その学生以外に研究補助を依頼できる者がいなかったためである。こうして次年度への繰越金が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、主に旅費に費やす予定である。平成29年度に行われる2つの学会への出席にこれを当てる。そのうち、1つはすでに4月に行われた日本英語学会国際春季フォーラムでの学会発表のため、旅費を支出した。また、5月末に行われる13th Workshop on Altaic Formal Linguistics(第13回アルタイ諸語形式言語学フォーラム)で研究発表を行うために、旅費が必要となる。そして、本年度、他の国際学会へ応募し、研究発表が採択された場合参加する。そして、海外研究協力者Fongとの研究打ち合わせにも旅費が必要である。本年度も研究補助のために昨年より多くの謝金を使用する予定である。すでに研究補助員を用意している。
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Research Products
(7 results)