2018 Fiscal Year Research-status Report
対称的素句構造の音声化・線形順序化における形式素性・形態格の役割について
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16K02779
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
成田 広樹 東海大学, 文学部, 講師 (60609767)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 博子 目白大学, 外国語学部, 専任講師 (40637633)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 句構造の対称性 / 省略 / 削除 / 形態格 / 分散形態論 / 短縮応答 / 複合語形成 / 極小主義プログラム |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に行った関西言語学会第42回大会での招待講演をもとに論考を作成し、フェイズ(phase)単位の循環的句構造計算における格付与のメカニズムを巡る研究を関西言語学会会報に出版した。本論考では音声線条化のメカニズムにおける形態格の役割に焦点を当てて論じるとともに、日本語の格脱落(Case marker drop)の現象についての統一的分析案を展開した。 また、成田(研究代表者)がAl-Mutairi(2014)の極小主義プログラムの解説書について書評論文を出版し、極小主義プログラムが推し進める最適性・計算効率性の概念について批判的に検討した。また、木村博子(研究分担者)が省略構文についての書籍(Konietzko 2016)について書評を著し、省略研究の現在の状況と将来的課題について論じた。 さらに、日本英語学会第36回大会シンポジウム「言語理論における形態論の「分散」をめぐる諸問題」に登壇し、木村博子(研究協力者、目白大学)との共同研究を発表した。本発表では、複合語を伴うWh疑問文に対する短縮応答が句Wh疑問文に対するそれとは異なる振る舞いを示すことを示し、複合語形成という形態統辞論の主要なテーマについて、分散形態論(Distributed Morphology)的枠組みのもと、省略という新たな観点からアプローチすることに成功した。 また、福井直樹(上智大学)との共同研究『Symmetry-driven Syntax』(仮題、Routledgeと出版契約締結済)は、特に人間言語の移動操作を律する制約としての句構造の対称性の位置づけ、およびいわゆる多重一致(multiple Agree(ment))の現象の位置づけを明確にするべく、鋭意執筆を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
木村博子(研究分担者)との共同研究は概ね順調に進行している。本年度内で行った日本英語学会第36回大会シンポジウムにおける研究発表においては、複合語形成を伴う省略構文に着目することで、特に分散形態論(Distributed Morpphology)の観点から人間言語の削除操作に対する新たな分析案を提示することに成功し、統辞法(シンタクス)-音韻インターフェイスにおける形態論と音韻的削除操作の役割について新たな成果が得られた。 また、音声線条化のメカニズムにおける形態格の取り扱いについて、昨年度関西言語学会で発表した内容を修正・発展させ、論考として学会会報に投稿、出版することができた。 一方、本研究課題期間を通じて執筆を続けている福井直樹(上智大学)との共同研究『Symmetry-driven Syntax』(仮題、Routledgeと出版契約締結済)については、当初予定していたよりもモノグラフの扱う言語現象の範囲を拡大することとなったため、若干進捗に遅れが生じている。特に人間言語の移動操作を律する制約としての句構造の対称性の位置づけ、およびいわゆる多重一致(multiple Agree(ment))の現象の位置づけを明確にするべく、鋭意執筆を進めている。2019年度以内での出版を目指して草稿の執筆を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
福井直樹(上智大学)との共同研究を修正・発展させてモノグラフとして完成させ、その出版まで目処を立てることを目指す。Chomskyらによる最新のラベル付けアルゴリズムを批判的に検討し、「生成的演算は対称的構造を出力とする」とする対称性原理(Symmetry Principle)の仮説のもとに、極小モデルに基づく統辞理論を抜本的に再定式化することが本研究課題の最終年度の目標の一つとなる。本論考の中では、句構造の対称性を決定する素性一致について最小計算に基づく新たな分析を提示し、またその中で形態格の果たす積極的な役割について論じる予定である。 また、日本英語学会第36回大会シンポジウムに発表した木村博子(研究分担者; 2019年度より千葉工業大学)との共同研究を発展させ、特に近年注目されている分散形態論(Distributed Morphology)の観点から複合語構造を伴う削除現象を分析する。その成果を本研究課題最終年度内に学術雑誌に投稿し、査読を経て出版することを目指す。また、削除認可をめぐる意味的同一性に基づくMerchant (2004)等のアプローチを批判的に検証する論考を完成させ、ジャーナルに出版することを目指す(査読を受け修正中)。
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Causes of Carryover |
本年度に研究で使用するパーソナルコンピューターやプリンタ等の備品の買い替えを計画していたが、バッテリーの修理交換等で既存の備品を存続使用することができた。また、研究補助者への謝金などで使用する予定だった予算について、研究補助者雇用を次年度以降に持ち越したため、その結果予算の一部に次年度使用額が生じた。
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