2016 Fiscal Year Research-status Report
古英語・中英語における目的語移動の可能性と左周辺部構造に関する研究
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16K02784
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
柳 朋宏 中部大学, 人文学部, 准教授 (70340205)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 目的語移動 / 談話標識 / 遊離数量詞 / 古英語 |
Outline of Annual Research Achievements |
古英語における目的語移動に関する例を古英語コーパスであるYork-Toronto-Helsinki Parsed Corpus of Old English Prose から収集し、目的語移動が観察される統語環境に基づいて分類を行った。主節・従属節のいずれにおいても、目的語が副詞よりも右側に生起している例を「基本語順」、目的語が副詞よりも左側に生起している例を「目的語移動」として定義した。また、語彙動詞の生起位置にも着目し、動詞第二位文の場合と助動詞構文の場合とを区別し分類を行った。さらに副詞の種類についても考慮し、「談話標識」とそれ以外の副詞に大きく分類した。 古英語の主語の分布については既に指摘されていることではあるが、談話標識が話題要素と焦点要素の境界を示しており、談話標識の左側には話題要素が現れる傾向にある。同様のことは古英語の目的語についても当てはまる。主語と同じく、目的語も談話標識の左側に生起することが可能であり、談話標識が節中にある場合は、その目的語は第2の話題要素として解されると論じた。ただし、主語と目的語の統語的非対称性のため、主語移動に比べて目的語移動の事例はあまり多くないという結果となった。さらに遊離数量詞は焦点要素になり得るという従来の仮定を考慮すれば、目的語から遊離した数量詞が談話標識の右側に生起し、目的語が左側に生起するという事実も適切に説明できることを主張した。 本研究の成果により、これまで主張されていた古英語における談話標識の役割に対して更なる証拠を提示することができた。また談話標識の役割に加え、遊離数量詞と目的語移動とを関連づけて分析した結果、数量詞が遊離した際の機能と目的語移動の談話機能についても明示的に示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は、散文と韻文とにおける目的語移動の可能性についても論じる予定であったが、分類に手間取ったため、調査対象が古英語の散文コーパスであるYork-Toronto-Helsinki Parsed Corpus of Old English Proseに限定されてしまい、古英語の韻文コーパスであるYork-Helsinki Parsed Corpus of Old English Poetryまで広げることができなかった。また分類の基準である「従属節の節タイプ」については今回は分類基準から外し、「副詞のタイプ」についても談話標識とそれ以外の副詞のように二分法を用いることとした。この点も当初の研究計画では予定していたことであるが、節タイプや副詞のタイプを決定するための基準を明確に定義しておく必要性を考慮し、この2点についての分類は翌年度へと持ち越すこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
研究成果の一部についてはアメリカでの国際学会で発表することが決まっており、発表後は学会誌への投稿を予定している。別の国内外の学会等でも発表していく予定である。節タイプと副詞のタイプによる分類は、それぞれのタイプを決定するための基準を明確にしたのち、目的語移動の有無と合わせて分類を行う予定である。従属節における目的語移動の可能性は節タイプに依存する可能性があるため、節タイプによる分類は特に慎重に行っていく。副詞の特性も目的語移動の性質に影響すると予測されるため、副詞のタイプによる分類についても慎重に行っていきたい。 調査対象とする古英語に関して、今回使用した散文コーパスであるYork-Toronto-Helsinki Parsed Corpus of Old English Proseの他、韻文コーパスであるYork-Helsinki Parsed Corpus of Old English Poetryにも範囲を広げ、散文と韻文との違いが目的語移動の利用可能性に与える影響についても論じていく。さらに調査範囲を中英語にまで広げ、Penn-Helsinki Parsed Corpus of Middle English 2やInnsbruck Prose Corpusを用いて、中英語における目的語移動の利用可能性についても、古英語での分析と同じ基準を用いて、論じる予定である。
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Causes of Carryover |
ドイツで開催された第19回国際英語歴史言語学会議での発表を予定し、そのための旅費を計上していたが、その国際会議での発表は見送ることし、次年度アメリカで開催される第23回国際歴史言語学会議に発表者として参加するための旅費に割り当てるため、次年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
諸言語の統語論関係の書籍や英語史関係の書籍を購入する他、上記のアメリカで開催される第23回国際歴史言語学会議で発表するための旅費に使用する。また、秋に開催予定の国際学会での発表も予定しており、そのための旅費としても使用予定である。その他、文献複写の費用やマイクロフィッシュ資料のPDF化のための費用にもあてる予定である。
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Research Products
(7 results)