2017 Fiscal Year Research-status Report
古英語・中英語における目的語移動の可能性と左周辺部構造に関する研究
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16K02784
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
柳 朋宏 中部大学, 人文学部, 准教授 (70340205)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 目的語移動 / 談話標識 / 周辺的副詞節 / 中核的副詞節 / 古英語 |
Outline of Annual Research Achievements |
古英語・中英語における理由・原因を表す副詞節において、主節現象としての目的語移動が観察されるかどうかを、古英語のコーパスYCOEと中英語のコーパスPPCME2を用いて調査した。 現代英語における従属節中の主節現象の可能性は、副詞節の二分法(中核的副詞節と周辺的副詞節)によって説明されることがある。つまり、中核的副詞節では主節現象は観察されないのに対し、周辺的副詞節では観察される。古英語で観察される目的語移動を主節現象の一種として捉えるなら、古英語の副詞節においても、周辺的副詞節では目的語移動が可能であるのに対し、中核的副詞節では目的語移動は観察されないことが予測される。この予測を確認するため、古英語・中英語における理由・原因を表す副詞節において目的語移動が観察されるかを検証した。 古英語では「for + 指示代名詞 + 従属化詞」が理由・原因を表す副詞節である。この副詞節では、目的語移動が観察された。ただし、今回対象としたのは、目的語が主語の左側に現れる事例に限ったため、実例はかなり少数であった。その後「for + 指示代名詞 + 従属化詞」は形態的融合の結果、従属構造から等位構造へと移行することになる。 一方、中英語では「by + cause + that」が理由・原因を表す副詞節として用いられるようになる。現代英語におけるbecauseの語源であるが、現代英語のbecauseの場合とは異なり、中英語の「by + cause + that」で、目的語移動は観察されなかった。このように目的語移動が観察されなかった要因の1つは、中英語の「cause + that」が同格構造をなしていることに関係していると論じた。また、主節と従属節の区分は段階的なものであり、話者の関与が強い節は従属節であっても主節に近い位置付けとなることを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、従属節中における主節現象としての目的語移動を調査し、どのような従属節で、どの程度観察されるかを明らかにすることであった。しかしながら、従属節中における主節現象は、本来的には有標の現象である。そのため、古英語・中英語においても実際観察される現象ではあるものの、理由・原因を表す副詞節中の頻度は、当初想定していたほどではなかった。そのため十分な言語事実を集めることが困難であったことから、本研究課題を十分には進めることができなかった。 言語事実の取集に関して、古英語のコーパスに関しては十分な語数が含まれていることから、有標な現象とはいえ、ある程度用例を集めることができた。一方、中英語において、従属節中の主節現象のような有標な現象を調査するには、今回使用した中英語のコーパスは規模が小さすぎたといえる。 また、副詞節を中核的副詞節と周辺的副詞節との2つに区分する他、周辺的副詞節をさらに二分する分類法が、ドイツ語や日本語に対して提案されている。そうした三分法を用いることで、より精緻な説明ができた可能性はあるが、十分なデータを取集することが難しかったことに加え、先行研究を適切に踏まえて、分析を適用させるまでにはいたらなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
中英語のコーパスPPCME2は規模が小さいことは一般に指摘されていることであり、当該の現象が観察されなかった要因の1つだとも考えられる。そこで、Innsbruck Prose Corpusなど他の中英語コーパスを用いて調査範囲を広げる予定である。また従属節の種類による目的語移動の可能性を探るとともに、他の主節現象についても調査し、古英語・中英語における周辺的副詞節の特徴づけを試みる。さらにbecause節のように、同格構造から従属構造への変化と目的語移動の利用可能性との間の関連性についても論じる予定である。 「統語的目的語移動」「かき混ぜによる目的語移動」「談話駆動の目的語移動」に「話題化による目的語移動」を加えた4種類の目的語移動の特質を明らかにし、古英語・中英語において、主節・従属節における左周辺部を含む統語構造とその変化について論じる。英語の歴史において、上記の目的語移動は段階的に衰退し、最終的には消失する。このような衰退と消失の要因についても論じる予定である。また、主節と従属節との間には、より主節的な周辺的従属節と、より従属節的な中核的従属節とが段階的に存在すると考えられる。古英語・中英語における節の意味的・機能的分類を試み、主節現象としての目的語移動の可能性についても論じる。 このようにして得られた研究成果の一部については、英国の国際学会で発表することが決まっており、発表後は学会誌あるいは論文集への投稿を予定している。
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Causes of Carryover |
(理由) アイスランドで開催された The 48th Annual Meeting of the North East Linguistic Society での発表を予定しており、そのための旅費を計上していたが、その国際会議での発表は採択されなかったため、旅費を繰り越すこととなった。また、当初予定していた図書の入手に時間を要するため同じく繰り越すこととした。
(使用計画) 新たに出版されるものを含め、諸言語の統語論関係の書籍や英語史関係の書籍を購入する他、発表が決まっている第20回国際英語歴史言語学会議に参加するための旅費に使用する。また、秋に開催予定の国際学会での発表も予定しており、そのための旅費としても使用予定である。
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Research Products
(3 results)