ロシア語を母語とする日本語学習者の音声習得研究－第二言語習得理論の構築のために

2016 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 16K02797
• Research Institution: The University of Tokyo
• Principal Investigator: 小熊 利江 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00448838)
• Project Period (FY): 2016-04-01 – 2019-03-31
• Keywords: 第二言語習得 / 日本語教育 / 音声学 / 縦断研究 / ロシア語母語話者 / 自然発話スタイル / 日本語能力測定

Outline of Annual Research Achievements

本研究の主な目的は、ロシア語母語話者による日本語音声の習得過程、および習得上の困難点や難易について明らかにすることである。研究代表者は、既に平成25年にモスクワにてロシア語母語話者52人による日本語音声を収録しており（迫田2014）、平成27年にはそのうち24人について、同様の音声データを収録している（小熊2016）。
平成28年度には、当初の研究計画の通り、さらに同一の被験者について縦断的な研究を行うため、モスクワに出張し同様の調査を行った。最終的に、モスクワにおいて被験者15人を対象にした調査を行うことができた。
第二言語習得研究において縦断研究を行うにあたり、同じ被験者について長期に観察を続けることは非常に難しい。また、音声データは分析に耐えうるレベルの質で収集すること自体に、多大な労力と時間がかかる。したがって、音声習得の縦断研究はほとんど行われていない手法であり、本年度、縦断的な調査において15人の被験者による自然発話スタイルの音声データの収集を行うことができたのは大きな成果である。自然発話スタイルの音声は、学習者の習得状況を最も適切に表すとされている。しかも、平成25年から平成27年、平成28年と約3年間にわたる日本語音声習得の縦断的な調査として、被験者15人という数は例を見ないほど多い。つまり、本音声データ自体が非常に希少なものであり、学術的な価値が高いと言える。
本年度に収集した日本語音声データにより、これまでほとんど行われていないロシア語母語話者の日本語発話について、実証的な音声習得研究を行うことができるようになる。同一被験者の発話を縦断的に観察することによって、学習者が実際にたどる習得過程を詳細に記述し分析することが可能になる。今後の分析により、ロシア語母語話者による日本語音声の習得過程が、初めて明らかになることが期待される。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

本研究では、研究手法として、横断研究からの習得過程の予測について、縦断研究を用いて検証を行う手法を採用している。第二言語習得研究において、同じ被験者について長期に観察を続ける縦断研究はデータ収集が非常に困難であるため、縦断研究という手法による研究はあまり行われていない。しかし、実際に学習者がどのような習得過程をたどるのかを明らかにするためには、日本語能力レベル別に分析された横断研究による予測を、縦断研究によって検証することが必要である。
縦断研究の一環として、平成28年度に実施することが計画されていた、モスクワにおけるロシア語母語話者の日本語音声習得に関する調査は、無事に終了した。事前に、対象となる被験者に調査への協力を求めたが、縦断研究の開始から既に3年を経ているため、大学を卒業している被験者や卒業論文執筆中の被験者が多く、調査スケジュールの調整は難航した。結果的に、本調査に参加できた被験者は15人であった。15人という被験者数は、縦断研究の対象者としては数が多く、研究が順調に進展していると判断される。
調査の方法は、過去2回の調査と同質の自然発話スタイルの音声データを収集するため、迫田（2014）の手順に沿って行った。調査の際には、音声データ収集の他に、被験者の日本語能力レベルを測定するために、2種類のオンライン・テストを受験してもらった。
本年度の調査において同一被験者から収集された日本語音声データを用いて、平成25年に収集した音声データ（迫田2014）ならびに平成27年に収集した音声データ（小熊2016）と対照分析することが可能になる。さらに、被験者の日本語能力の測定も行っていることから、日本語能力レベル別の分析も可能になることが見込まれる。

Strategy for Future Research Activity

本研究の主な目的は、ロシア語母語話者による日本語音声の習得過程、および習得上の困難点や難易について明らかにすることである。その上で、第二言語習得研究における日本語音声習得過程の解明に向けた理論構築に貢献することである。
平成29年度には、前年度にモスクワで収集した音声データのコンピュータ入力と文字化、および分析を行う計画である。具体的には、音響分析ソフトを用いて音声データの編集を行い、ロシア語母語話者の日本語音声について、日本語母語話者による聴覚的な評価の調査を行う。
ロシア語母語話者である日本語学習者の自然発話スタイルの音声について、聴覚的な評価を詳細に行うには、音声研究者あるいは日本語音声学の知識を有する実務経験者、ロシア語母語話者の日本語音声に接触経験の多い日本語教師などに調査を依頼することが望ましい。聴覚的な評価の調査は、ロシア語母語話者の日本語音声を聞いて自然さ・不自然さを評定し、その度合いを評価するという内容である。事前に、音声評定のためのフォームや評定者に関するフェイスシートを作成する。
本年度、上記のような対象者に謝金を支払い、音声評定を依頼する予定である。音声評定の結果を分析し、ロシア語母語話者の日本語音声習得上の特徴や難易について明らかにしたい。平成28年度に、15人という多数の被験者の縦断的な音声データを収集できたことで、本研究の結果を一般化できる可能性が見込まれる。
研究の成果については、平成29年度の分析の途上においても、明らかになった結果から随時、学会等にて報告していくことにする。発表する学会として、日本国内の他、ロシアの日本語教育界に研究成果を還元するためモスクワの国際会議などを想定している。また、第二言語の音声習得研究に貢献するため、様々な母語による日本語学習者の研究が進むヨーロッパや北米においても研究発表を行う予定である。