2016 Fiscal Year Research-status Report
理系大学における複数言語使用者の「位置取り」を探るマルチモーダル分析
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16K02802
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
本郷 智子 東京農工大学, 国際センター, 准教授 (60401452)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マルチモーダル分析 / 相互行為 / 複数言語 / 理系コミュニティ / 位置取り / 接触場面 / リソース |
Outline of Annual Research Achievements |
理系大学では、昨今、教育研究のグローバル化が加速し、留学生が所属する研究室では日本人学生も含めコミュニケーション場面において、英語、日本語の混用が広がってきている。そのため、従来のように留学生が日本の研究室文化に適応していくことを支えるホスト-ゲストの関係を基軸とするコミュニティから、お互いの異なる習慣や考え方を前提に、対等な相互理解を目指すコミュニティへと移行しつつある。このようなコミュニティの成員である学習者を対象とした日本語教育のありかたとはどういったものかはまだ明らかになっていない。そこで、本研究では、複数言語使用者である理系コミュニティの成員が研究室のゼミ場面でどのような相互行為を行っているかを探り、それを基に、理系コミュニティを対象にした新たな言語教育デザインを構築することを目的とした。 本年度は、理系大学の情報工学研究分野の研究室を対象フィールドとし、そこに所属する教員、留学生、日本人学生で構成されるゼミでの話し合いを対象データとした。ゼミの進行において、参加者間で物事の解釈にずれが生じ、相互行為が滞った場合、それぞれの役割や使用言語がどのように変わっていくかに着目し、具体的なコミュニケーション行動(言語行動・非言語行動)を録画し、マルチモーダル分析の手法(アノテーション用ツールELANを使用)にて記述した。 その結果、対象とした留学生が相手との関係性に配慮しながら、自らの立ち位置を調整し、相互行為を進めているプロセスが観察された。録画データのマルチモーダル分析により、言語のみならず非言語行動、スペース、ビジュアル、道具などありとあらゆるリソースを活用し、コミュニケーションを行っている実態が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画通り研究は進んでいるが、「位置取り」というよりは、マルチモーダルなリソースの使用に研究の関心が移行しつつある。まず、理系研究室のゼミ場面の録画作業および文字起こし資料の作成をし、ゼミ場面の相互行為のデータ収集・分析を行った。 ①データ収集場所:定期的に行われている研究室ゼミをフィールドとする。英語によるプレゼンテーション後に行われた質疑応答場面での相互行為をデータとして収集した。②データ収集方法:ビデオカメラ3台を別の角度から研究室脇に、IC レコーダーを発表者の前に設置した。③対象者:理系大学の情報工学研究分野の研究室に所属する日本人教員、留学生、日本人学生。留学生以外は、全員日本語母語話者である。英語にて専門発表練習を行った後の、複数言語(英語および日本語)で行われた質疑応答を分析対象とした。④記述方法:会話分析の手法(ゲール・ジェファソンのTranscription Key)により、データを文字化した。次に、ELANによるアノテーション入力作業を行った。ELANによる分析方法:言語行動および非言語行動の連動性を分析するために、アノテーション用ツール、ELANを用いた。録画データを基に、複数言語使用場面において相互行為がどのように進行しているかををマルチモーダル分析の手法で記述した。ELANによるアノテーション作業は、複数のアノテーションを同時に入れると作動が遅くなることがわかった。そのため、いくつかのファイルに分けて作業を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度に分析した資料をもとに、研究室を構成する成員に対するインタビュー調査を行う。①調査方法:研究室ゼミの参加者を対象に半構造化インタビューを行い、それぞれが複数言語使用の接触場面における一連の相互行為をどのように意味づけているかを探る。インタビューは留学生に対しては、英語、日本人学生に対しては日本語にて行う。一連のやりとりはICレコーダーで録音し、録音データは文字化する。②分析方法:1)の文字化資料を基に、特徴的事象のカテゴリー化および概念化を行う。これらの結果を基に再度マルチモーダル分析資料との照らし合わせを行う。以上の結果をもとに、言語教育のデザインに着手する。
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