2017 Fiscal Year Research-status Report
中国語話者から見たニア・ネイティブレベルを目指すための語彙に関する総合的研究
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16K02818
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
劉 志偉 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (00605173)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 語彙シラバス / 教師側の視点 / 学習者側の視点 / 学習メモ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は以下の2つの論文を発表した。 一本目は首都大学東京言語研究会の会誌『言語の研究』第3号に発表した「新しい日本語教育のアクセント学習において必要なもの―中国人日本語学習者の〈学習メモ〉の分析から―」である。従来の研究では、漢字表記語において日本語のアクセントと(現代)中国語の声調との間に相関がないとされているが、この論文では、筆者自ら記し続けてきた学習メモを手がかりに、両者の間に明確な関係がないにしても、中国語を母語とする学習者が実際に漢字表記の語を産出する際に、中国の声調の影響を受ける場合もあると主張している。中国語話者が日本語の単語を発音する際に、頭高型になりがちとの結果が多くの研究で報告されているが、本研究では、現代中国語の漢字表記が1声と2声の場合、特にその傾向が強いことを明らかにした。学習プロセスを示す実際の学習メモに基づいて、そして学習者の内省を踏まえた上で、従来の研究では扱われてこなかった手法で今後のアクセント研究に一石を投じた役割を果たしていると思われる。 二本目は「ニ格名詞句に関する一考察―日中対照研究の見地から―」と題する論文で、庵功雄・杉村泰・建石始・中俣尚己・劉志偉編『中国語話者のための日本語教育文法を求めて』に収録されている。筆者は、非母語話者による対照研究がイコール学習者の視点と考える立場ではないが、対照研究の限界性を意識しつつ、日本語教育におけるその有効性についても積極的に勘案している。この論文は、対照研究の視点から格助詞のニについて考察した論考である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画通り、ネイティブ教師側の視点を反映するデータの1つである砂川データとの比較を終わらせ、その成果を複数の論文として公表した。 一方、平成29年4月より研究代表者の所属機関の変更に伴い、平成28年度中に予定していたもう1つの比較対象となる山内データの入力作業を延期せざるを得なかった。平成28年度中に新しい所属先の研究補佐にアルバイトを依頼したが、ようやく平成30年4月中にデータの入力作業が終わった。予定よりやや遅れたが、研究のベースとしての基礎資料が整ったので、研究計画通り、比較作業を進めてゆきたい(詳しくは「今後の研究の推進方策」の箇所を参照されたい)。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画通り、山内(2013)のデータとの比較を行う。山内データはコーパスより抽出した、日本語ネイティブ教師側の視点を反映するデータの1つである。このデータと、学習者である研究代表者自らのデータと比較することを通して、両データの特徴を明らかにすると同時に、ネイティブ教師側の視点と学習者側の要望との間にどのようなずれがあるかについても考察したい。また、同じくネイティブ教師の視点を反映する砂川データとの三者比較も視点に入れたいと考えている。 また、研究が進むにつれ、新たに語彙の視点から撥音「ん」を伴う形式について考察を行う予定である。具体的な課題としては、「一段動詞+ん(この場合、打ち消しの助動詞のみに注目するわけではない)」形式に関する考察が挙げられる。このほか、学習者の視点から見た係助詞ハと格助詞ガに関する従来の指導の落とし穴についても研究発表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
次年度の研究費使用は主に以下の3つに分けられる。 一つ目はデータ入力に対する謝礼の支払いである。平成30年4月にデータの入力が終わったため、それに対する謝礼の一部が平成30年度の経費支出となる。二つ目は学会出張及び発表に伴う費用である。現段階においては、第10回漢日対比語言学(協作)会(中国・蘇州)と第12回国際日本語教育・日本研究シンポジウム(香港)の国際学会での発表を予定している。また、日本国内の学会または研究会での発表も考えている(山梨ゼミ合宿等)。三つ目は書籍の購入である。中国国内の教材を収集し、これらの教材がもたらす影響についても考えていく予定である。また、最新の研究動向を知るためには、新刊の参考書等の購入予定がある。このほか、研究に必要な備品を購入する場合もある。
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Research Products
(5 results)