2016 Fiscal Year Research-status Report
韓国の社会変化と国際結婚家庭の言語使用-日本人母の日本語の継承を中心に-
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16K02830
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
花井 理香 関西学院大学, 言語コミュニケーション文化研究科, 研究科研究員 (60745967)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 言語継承 / 国際結婚 / 多文化家庭 / 多文化共生 / 日本語の継承 / 日本人母 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、少数派言語を母語に持つ親の子どもへの言語継承という視点から、国際結婚家庭が増加している韓国に居住する日本人母(以下、在韓日本人母)を対象に、日本語の継承に影響を与える要因を探ることを目的としている。①家族変化、政策などの社会的支援や社会変化がどのように言語選択に影響を与えるのか、また、②言語選択によって、家族内の価値観や子育てがどのように変化してくるのか、それには政策・支援がどのように関わってくるのかということを明らかにする。 平成28年度は、2006年から継時的に実施している在韓日本人母の面接調査の第3回目の調査結果をまとめた。対象者7名はすべて第1、2回調査時はソウル近郊に居住していたが、第3回目の居住地は、韓国4名、日本2名、英語圏1名となっていた。調査結果からは、父親の支援・理解など、家族の日本語を習得させようという積極的な姿勢が、日本語の継続的な使用を促進させる要因となっていると考えられた。また、韓国での外国語教育熱、日本語の社会での評価の高さから、日本語習得に積極的になる母親が第1回目の調査から見受けられたが、子どもが成長するにつれ、親とのコミュニケーション、将来の選択肢の広がりへの期待などが日本語の継続的な使用に影響を与えていると考えられた。しかし、韓国の過剰な教育熱には抵抗感を抱く母親も多く、教育過剰からの回避が海外での教育を選択した理由の一つに挙げられていた。社会での多文化家庭への認識が向上し、政府の支援なども改善され、日本語の使用・継承を肯定的に捉える環境が整いつつある韓国社会ではあるが、過剰な教育からの逃避、子どもの勉強以外の可能性を求め、日本への留学・居住を意識した日本語の使用をしている家庭が多くみられた。本調査からは、韓国での教育体制が家庭の言語に大きく影響を及ぼすことが明らかとなった。これは、今後の韓国社会の大きな課題であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、2006年から実施している在韓日本人母7名の第3回目の面接調査、2009年から新たに実施している10名の面接調査の実施をあげている。継時的調査から、家族・社会変化と家庭内言語使用、母親の日本語継承意識の変化を探ることを目的としており、2006年からの7名の第3回目調査は終了し、2009年からの対象者10名中6名の調査が終了した。2006年からの7名に関しては、すでに調査結果をまとめ、学会で発表した。 さらに、政府の支援として、多文化家族支援センターへの訪問や日本人コミュニティや子どもへの日本語学習塾などのサークルなどで参与観察を行うことを予定している。日本人コミュニティでの参与観察は2008年度から実施しているコミュニティがあり、引き続きコミュニティ代表者などと連携し調査を実施している。特に、平成29年度のコミュニティ結成10周年に向け、コミュニティの変遷の整理、家族の記録などを作成することを進めている。また、多文化家族支援法関連の先行研究の整理なども行った。多文化家族支援法(2008年)施行以後、さまざまな研究結果が発表されているが、政府の支援関係の批判的な論文、政府の実際の支援を受けている対象者の調査論文などを収集し、現在の課題などの整理に努めた。トップダウン式の韓国の法令は、現在になり、同化政策であると批判的に捉えられていることが多いものの、さまざまな支援が試行されており、当事者たちの韓国での生活に大きく影響を与えていることが明らかとなっている。今後も文献の収集、コミュニティでの参与観察は引き続き実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、継時的調査の残り在韓日本人母4名へのインタビューを終了し、家庭・社会の変化がどのように家庭での言語選択・継承に影響を及ぼすのかを探る。韓国の教育体制と外国語教育などの観点からの言語選択・言語継承への影響についても考察する必要があると考える。これらの調査により、現在の韓国内での課題も提示できるのではないかと考える。 また、一番の大きな調査は、参与観察をしている日本人コミュニティが10周年のため、その記録整理をサポートしながら、コミュニティの変遷、活動・運営、子どもへの日本語学習活動の実態などを観察し、在韓日本人母にとってのコミュニティの存在意義、日本語を学習する意味や日本語継承意識などの変化を、コミュニティに参加している母親、そして、父親や子どもたちの面接調査などから探る。子どもの成長と共に、コミュニティは変化しているのか、変化しているのであればその要因は何かということを探る予定である。発表会や行事などを通して、子どもたちの日本語学習への動機づけやそのプロセスなどを面接調査などから明らかにし、授業風景、行事などのビデオ撮影を実施し、海外にいる日本にルーツを持つ子どもたち、日本国内にいる外国人児童・生徒たちの継承語教育の一事例として考察し、今後の継承語教育の課題を提示する。 それと並行して、在韓国内で211カ所設置されている多文化支援センターでの実際の事業・支援活動をフィールド調査し、結婚移民者たちのセンター利用実態、そしてセンターがどのように結婚移民者たちの韓国生活に影響を与え、位置づけられているかを調査する。すなわち、「多文化家族支援法」がどのように地域で遵守され、結婚移民者にどのような影響を与えているのかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
旅費として、国際学会への参加を考えていたが、テロなどの危険性があったため、断念した。韓国での調査も、継時的面接調査や日本人コミュニティとの話し合いが順調に進んだため、予定より少ない渡韓回数での調査となった。 また、映像の編集補助などの人件費を予算化していたが、今年度は編集するビデオ画像も少なかったため、未使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用となった映像編集補助の人件費などは、平成29年度に日本人コミュニティの変遷などを映像化するため、使用予定である。また、それに伴い、韓国への出張も増加するものと考えられ、多くの旅費が発生すると考えられる。さらに、コミュニティでの面接調査が予定よりも人数が多くなると考えられるため、謝金やテープ起こしなどに、繰り越した研究費を使用する予定である。
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