2018 Fiscal Year Research-status Report
韓国の社会変化と国際結婚家庭の言語使用-日本人母の日本語の継承を中心に-
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16K02830
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
花井 理香 関西学院大学, 言語コミュニケーション文化研究科, 研究科研究員 (60745967)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 言語継承 / 国際結婚 / 多文化家族 / 多文化共生 / 日本語の継承 / 日本人母 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、少数派言語を母語に持つ親の子どもへの言語継承という視点から、国際結婚家庭が増加し、2008年に「多文化家族支援法」が施行された韓国に居住する日本人母(以下、在韓日本人母)を対象に、日本語の継承に影響を与える要因を探ることを目的としている。①家族変化、政策などの社会的支援や社会変化がどのように言語選択に影響を与えるのか、また、②言語選択によって、家族内の価値観や子育てがどのように変化しているのか、それには、政策・支援がどのように関わってくるのかということを明らかにする。 まず、2007年に立ち上げられた在韓日本人コミュニティの10年間の参与観察の結果をまとめた。2017年のコミュニティの10周年の記念行事、アルバム制作に協力し、母親のフォーカスインタビューと父親3名のインタビューから、コミュニティは海外で生活する母親の生活の活力の場、心の拠り所となり、日本語の使用を肯定的に捉えられる場となっていることが明らかとなった。これは、韓国政府が多文化家族の支援に注力し、社会での理解が定着したことも大きく影響していた。生活のしやすさや、外での日本語使用の抵抗感のなさにつながっていると考えられる。今後の多民族社会を考える上で、コミュニティの重要性が示唆された。この調査結果は、2018年度異文化間教育学会研究大会で発表した。 次に、2006年から継時的に調査している7名の在韓日本人母の調査結果を研究論文として、関西学院大学大学院言語コミュニケーション文化研究科紀要『言語コミュニケーション文化』に発表した。今回の3回目の調査では、7名のうち3名が子どもに海外で教育を受けさせており、これには、韓国の教育問題が関与し、過剰な教育熱により、母子の韓国社会からの逃避が一要因であることが示唆された。社会での過剰な教育体制は、家庭での言語使用や教育に大きく影響を及ぼしていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、2016年度に2006年から実施している在韓日本人母7名の第3回目の継時的面接調査を終了し、2017年度に2010~2011年に新たに調査を開始した10名の第2回目の面接調査の実施を挙げている。2017年度はこのうち、面接を辞退した2名を除く8名の継時的調査を終了した。これで、対象者のインタビューは修了した。対象者のうち、日本語を使用していなかった4名の調査結果を2018年度同志社女子大学大学院文学研究科紀要に、2006年から実施している在韓日本人母7名の調査結果を、2019年関西学院大学大学院言語コミュニケーション文化研究科の紀要に研究論文として発表した。 また、2007年から参与観察をしている日本人母コミュニティの10年間の調査結果を2018年異文化間教育学会で発表した。現在も縦断研究として、参与観察を続けている。本調査結果の論文執筆については、現在内容を検討中であり、コミュニティメンバーと交渉中である。2019年度には、論文を完成し、投稿する予定である。 「多文化家庭」の政府による第2次調査が2017年に終了し、これらの結果が2018年度に論文として発表されると考えていたが、大きな調査結果は得られなかった。現在、韓国の研究協力者と「多文化家族(国際結婚家族)」についての論文収集をしているが、引き続き収集が必要であると考える。 現在、政府の支援の一つとしての団体や施設のフィールド調査として、移住民放送を調査中である。移住民放送の調査が必要であると判断し、研究費の延長を申請した。10月に大きなイベントとして映画祭があるため、それまで調査を続け、2019年度中に調査結果をまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、下記の調査が現在進行中であるため、2019年度は継続して研究をすすめ、研究結果をまとめる予定である。 第一に、在韓日本人母コミュニティの参与観察についての論文執筆である。10年間のまとめと、母親のフォーカスインタビュー、父親3名のインタビュー調査結果を、メンバーと内容を調整しながら論文を執筆する。2018年度の学会発表時には、発表スライドを提示したが、論文内容については、夏休みにもう一度フォーカスインタビューを実施し、内容の確認と、現在の活動状況などについて、調査する予定である。 第二に、2004年から非営利団体として活動している移住民放送の調査である。多文化家族だけではなく、移住民が韓国で生活してくための、一つの支援策として、各言語によるテレビやラジオ放送を実施し、移住民と韓国国民との交流の場として、映画上映や移住民映画祭なども開催している。移住民放送は、多文化や移住という背景を持つ、青年の支援という目標も掲げており、映画製作の講習会や制作の補助金などの支援もしている。多文化家族の子どもたちも増加していることから、このような支援がどのように個人や社会に影響を与えていくのか、放送局で働く日本人を通して調査を継続する予定である。 最後は、「多文化家庭」についての論文の収集である。政府による「多文化家庭」の第2次調査が2017年に終了したが、2018年度の論文発表は僅少であった。第3次計画も含め、引き続き2019年度も韓国の研究協力者とともに論文を収集していく。韓国政府の「多文化家庭」の支援内容、国民に対する普及事業、支援後の影響など、今後の日本での政策も含め、課題を検討する所存である。 これらの研究結果は、日本で多文化共生を考える上での、貴重なデータとなり、外国人児童生徒の言語教育問題などを考えていく上で、重要な意義ある研究になるであろうと考える。
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Causes of Carryover |
2018年度は、日本人母への継時的インタビュー調査、日本人コミュニティの10年間の参与観察がほぼ終了し、調査結果の学会での発表や研究結果の論文執筆など、国内での資料のまとめや分析などの時間が大半を占めた。また、フィールド調査していた在韓日本人母コミュニティの活動が減少したため、韓国への渡航も減少し、計上していた予算に余剰が生じた。 しかし、2019年度は、移住民放送の活動調査や日本人母コミュニティの調査結果の論文執筆の打ち合わせなど、韓国での調査が増加し、韓国渡航費や報酬謝金などが発生する予定である。延長期間内に有効に研究費を使用し、新たな研究結果を発表できるよう、努力する所存である。
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