2016 Fiscal Year Research-status Report
口語英語コーパスを利用した話し言葉への意識を高めるための言語活動・教材開発
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16K02907
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
山崎 のぞみ 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (40368270)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 口語英語コーパス / 話し言葉文法 / 相互行為 / 会話のスタイル / 共同発話 / ターンテイキング / 相づち |
Outline of Annual Research Achievements |
話し言葉の双方向性やオンライン性に関わる言語現象に対する学習者の意識を高めるための活動や教材開発という研究目的に向けて、口語英語コーパスを利用した相互行為的言語現象の研究を進めた。具体的には、話者同士が統語構造を共有することによって起こる共同発話について調査した。B: ... Yeah I was sort sort of asking him again A: Yes Cos you want to get back together (ICE-GB, S1A-050) のbecause (cos) 節のような、聞き手による副詞節を用いた統語単位の拡張に焦点を当て、このような副詞節による拡張がターンテイキング組織やターンスペースの認識にどのように関わっているかを明らかにした(「聞き手による統語単位の拡張―副詞節の場合」『Albion』(京大英文学会)62号に執筆)。 また、英語教育に「スタイル」の概念を取り入れる試みに関して模索し、「会話のスタイル」を教える意義や方法について検討した。会話の英語を教える際に、映画や口語コーパスの会話を例にして「ターンテイキング」や「相づち」がどのようになされているかを観察させれば、英語で会話するための大きなヒントを与えられることを示した(『英語のスタイル―教えるための文体論入門』(研究社)の第8章「会話のスタイル」を分担執筆)。 また、話し言葉の言語特徴の理解を深めるために、「話し言葉文法」(spoken grammar) についての研究も進めた。口語英語コーパス誕生以降の「話し言葉文法」研究の進展を調査し、英語の「文法」に対する考え方の変化や異なる観点を整理した。さらに「話し言葉文法」にどのようなものを含むべきか、さらに、教える文法との関連をどうすべきかという問題について先行研究を調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
口語英語コーパスを利用した話し言葉への意識を高めるための言語活動・教材開発という研究目的に向けて、研究期間前半の大きな二本柱である「コーパスを利用した会話の相互行為的特徴の研究」と「口語英語コーパス編纂や話し言葉文法研究の発展の調査・整理」の両方に取り組むことが出来た。 前者に関しては、聞き手による統語単位の拡張という共同発話現象(「聞き手による統語単位の拡張―副詞節の場合」『Albion』(京大英文学会)62号に執筆)や、ターンテイキングや相づちの側面の研究を深めることができた(『英語のスタイル―教えるための文体論入門』(研究社)の第8章「会話のスタイル」を分担執筆)。 後者に関しては、口語英語コーパス編纂以降の話し言葉文法研究の進展をまとめ、教育への示唆についても触れた。伝統的な書き言葉に基づいた文法との関連や違いについても論じた(「英語の『話し言葉文法』研究と教育的示唆」『現代英語談話会論集』第11号に執筆)。 以上のような研究成果は、話し言葉の使い方に気づきをもたらし、話し言葉と書き言葉の違いを意識させるための言語活動や教材開発にとって基礎となるものである。従来の書き言葉に基づいた伝統的文法とは異なる話し言葉文法の中身を精査し、教えるべき対象を選ぶための基盤をある程度作ることが出来たので、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、口語英語コーパスを利用した、会話の双方向性、オンライン性を反映した言語特徴に関する研究をさらに進めるつもりである。これまでに着目してきた話し手と聞き手が共同で発話を組み立てる共同発話現象のほかに、相づちやあいまい表現を取り上げたいと思っている。 また、話し言葉研究の重要な基盤は会話を文字や記号で書き起こした「トランスクリプト」である。音声やジェスチャーなど言語的・非言語的要素が多く関わる会話をトランスクリプトで完全に再現するのは不可能であるが、表記方法の改良や進歩によって会話にまつわる多くの情報を表せるようになった。コーパスの標識付与や注釈付与も同様である。このような、会話を研究対象として「再現」させる方法についても研究していく予定である。その際、書き言葉とは異なる話し言葉の理解には音声的特徴の考慮が必須であることから、音声表記を施しているコーパスの表記方法の調査も合わせて行う予定である。 さらに、話し言葉の相互行為的な言語現象に気づかせるメタ言語的な練習問題や活動を扱っている教材を国内・国外のものに関わらず収集して調査し、そのような練習問題や活動の意義と方法について理解を深めたいと思っている。学習者が話し言葉の特徴を意識化するには、書き言葉との違いやスタイルに対する認識が必要だと思われる。教える方法論としては、言語教育には3P(Presentation-Practice-Production) のアプローチが一般的であるが、話し言葉の実態に気づかせるタスクや活動はどのような方法が望ましいのかという点も考えたい。
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Causes of Carryover |
口語コーパスの進展や話し言葉文法研究の先行研究調査に時間を費やしたため、予定していたほどの金額の旅費が必要なかったことと、「その他」で使用予定だった消耗品などの予備があったために購入が不要となったことが理由で、少し次年度使用額が生じてしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分として請求した助成金と合わせて、さらに必要な書籍の購入や学会出張の旅費に使用したいと思っている。特に話し言葉研究は、談話分析、会話分析、コーパス言語学など多分野にまたがった学際的研究のため、最新の研究を扱った書籍が多数必要となる。ジャーナルにも目配りする必要があるため、ジャーナル購読にも使用したい。 また、パソコンが古くなり最新のものに買い換える必要性が生じる可能性もある。教育方面の研究に関しては、最新の英語教育法の動向を調査するために、教授法を紹介したDVDを購入することも考えている。以上のような用途のために、計画的に有意義に使用したいと考えている。
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Research Products
(3 results)