2017 Fiscal Year Research-status Report
口語英語コーパスを利用した話し言葉への意識を高めるための言語活動・教材開発
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16K02907
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
山崎 のぞみ 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (40368270)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 口語英語 / 話し言葉コーパス / トランスクリプト / 話し言葉文法 / 文法教材 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、話し言葉研究に必須のトランスクリプト(会話を書き起こしたもの)がどのように作成されるのかということについて調査し、話し言葉研究においてトランスクリプトが持つ意義と可能性を明らかにした。自然発生的で双方向的な会話を特徴付ける言語現象の説明のためには、話された言葉のみを表したテキスト表記では不十分であり、韻律情報やパラ言語情報を含んだトランスクリプトが必要である。「会話を書き起こす―トランスクリプトの実際と可能性」と題する論文では、音声情報の表記を含む会話コーパスをいくつか取り上げ、異なる理論的枠組を背景にして最適な表記体系が改良されながら発達してきた過程を概観した。また論文では、研究目的に応じた選択的な会話表記を行うことの必要性や、視覚情報を含んだマルチモーダルな会話コーパスの可能性についても示唆した。 さらに当該年度は、英語の話し言葉と書き言葉の違いに対する学習者の意識を高める方法として、話し言葉に特徴的な言語の使い方(話し言葉文法)に焦点を当てた言語活動の意義と方法について検討した。論文「話し言葉に対する意識を高めるための言語活動の意義と方法―文法教材調査を通して―」では、話し言葉文法を学ぶことで学習者は、正誤に基づいた規範的規則だけではなく、コンテクストやフォーマリティに応じた言語使用の視点やスタイルへの意識を養うことができることを示した。さらに、話し言葉の特徴に着目させるタスクやアクティビティを扱っている文法教材を取り上げ、どのようなアプローチがとられているかを調査した。その結果、話し言葉の特徴に気づきをもたらすには、観察や議論を通して使い方を帰納的に導き出させるアプローチに加えて、演繹的アプローチや空欄補充・選択式問題のような伝統的な形式も有効であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、話し言葉に特徴的な言語現象に対する学習者の意識を高めるために、口語英語コーパスを利用した活動や教材を開発することである。研究期前半の計画として、口語英語コーパス編纂の実態と話し言葉文法の進展を調査し、話し言葉文法の記述を進めることと、会話に特徴的な言語現象を明示的に扱っている教材のタスクやアクティビティを調査することを挙げている。「研究実績の概要」に記した通り当該年度は、一つ目の柱については、複数の会話コーパスのトランスクリプトで採用されている表記方法を調査することで、会話のどのような側面を文字や記号で表記し得るかを検討した。二つ目においては、文法教材調査を通して、話し言葉の特徴を意識させるタスクやアクティビティの形式の可能性を探った。平成28年度の成果(共同発話や会話のスタイルの研究、さらに話し言葉研究の進展のまとめと教育への示唆)と合わせて、当該年度も研究期前半の計画に沿って成果をまとめることが出来たため、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、会話における相互行為的言語現象の一側面として、「聞き手の役割」(リスナーシップ)に焦点を当てた研究を進めたいと思っている。聞き手は相づちなどによって「聞いている」ことを示しながら、話し手と協同で会話を構築している。口語英語コーパス調査によって、聞き手がどのような手段で会話参加者の役割を果たしているのかということについての解明を進めたいと考えている。さらに、The British National Corpusの話し言葉部分が20年以上の古さとなっていることが問題視されて新たにThe Spoken British National Corpus 2014というコーパスが構築されている。この最新のコーパスを利用することによって、リスナーシップや話し言葉文法の記述の進展に貢献したいと思っている。このコーパスはインフォーマルな日常会話に限定しているので、本研究の材料に適している。 また、聞き手の役割の研究で明らかになった側面を、どのように学習者教材で扱うかということについても研究を進めたい。話し言葉の実態を観察し、話し手の関係やコンテクストに基づいた言語使用に気づかせることで、会話の相互行為的な言語特徴を意識化することができる。コンテクストやスタイルに関する意識を高め、言語感覚の発達やメタ言語的能力の育成にもつながるような活動や教材を考案したいと思っている。
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Research Products
(2 results)