2020 Fiscal Year Research-status Report
口語英語コーパスを利用した話し言葉への意識を高めるための言語活動・教材開発
Project/Area Number |
16K02907
|
Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
山崎 のぞみ 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (40368270)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 話し言葉 / Spoken BNC2014 / 発話末 / 発話末のthough / ターンテイキング / テール(右方転位構造) |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は新型コロナウイルス感染症拡大のため、研究計画の部分的変更を余儀なくされたが、ウェブ上で利用できる最新のイギリス英語会話コーパスThe Spoken British National Corpus 2014 (Spoken BNC2014)を用いた研究成果をいくつか発表することができた。このコーパスは2012~2016年に収集されたイギリス英語母語話者による1,150万語の日常会話コーパスである。このコーパスを用いて、話し言葉に見られる発話末要素(節を構成する統語要素として位置づけられない離節的で付加的な要素)に関する二つの研究を行った。 第一に、1990年代に話し言葉で急増した比較的新しい用法の「発話末のthough」(例 that's what a lot of people do though)を、ターンテイキングとの関連で分析した。その結果、発話末のthoughは、付加疑問など他の発話末要素の相互行為的な役割と連動することでターン交替をもたらす可能性が高まる一方で、対比・不調和の談話関係を表すthoughの談話調整機能がthoughのターン継続機能に大きく関わっていることが分かった。 もう一つ着目した発話末要素は、テール(tail)と呼ばれる右方転位構造である(例 he sounds like he's got some serious mental issues that man)。テールは付加疑問と共起する場合、共起する順序によってテールが果たす主な機能(指示対象の確認・明確化機能や対人関係的機能)に違いが見られ、さらに、名詞句テールと代名詞テールは、付加疑問との共起パターンが同じではないことを示した。 上記の研究は、発話末という場所が持つ一般的機能や発話末要素の連鎖構造の解明につながり、話し言葉文法の記述の一助になると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は新型コロナウイルス感染症拡大のため、予定していた学会や研究会への対面参加がかなわなかったが、単独でできる言語調査や論文執筆、オンライン学会での発表を通して、研究課題を順調に進めることが出来た。 研究の前進は、新たにThe Spoken British National Corpus 2014 (Spoken BNC2014)というイギリス英語会話コーパスを導入したことが大きい。これまで、いくつかの話し言葉コーパスを用いて英語の話し言葉の特徴を記述してきたが、自然発生的で双方向的なインフォーマルな日常会話に特化した話し言葉コーパスは少ない。しかし、Spoken BNC2014に収められている会話は全て日常会話であり、本研究課題に最適であると考えて導入した。このコーパスを用いたことで、話し言葉に特徴的な言語現象の使用例を効率的に収集し、量的にも捉えることができた。 当該年度の主要な研究成果である話し言葉の発話末要素のうち、発話末のthoughは比較的、頻度が高いが、テール(右方転位構造)は発話末thoughほど頻度は高くなく、特に付加疑問との共起に絞り込むと尚更である。しかし、日常会話コーパスとしては大規模なSpoken BNC2014を用いることで、多くの生起例を得ることが可能となり、発話末要素の生起パターンの一端を捉えることができた。 また、複数の論文投稿による査読やオンライン学会発表で得たコメントで、話し言葉コーパスを用いて分析・記述する際の新たな留意点に気付かされた。会話の一部を切り取る際の文脈の示し方、頻度情報の取捨選択や示し方、コーパスを用いる意義を明示する必要性など、話し言葉コーパスに基づいた研究方法の新たな知見を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
口語英語コーパスを用いて書き言葉とは異なる話し言葉の実態を調査し、それを英語教育における言語活動や教材に応用するという本研究課題のうち、前半部分はこれまで行った様々な話し言葉の言語的特徴の調査を通してかなり達成できた。書き言葉中心の文法では正規の語順や用法から逸脱した「非標準的」用法と見なされてきたものが、インフォーマルな日常会話では一般的に万遍なく現れており、様々な相互行為的機能を果たしていることを示せたと考える。 今後の推進方策の一点目として、話し言葉コーパス利用における音声情報・韻律情報の重要性について考察を深めるつもりである。当該年度で用いた会話コーパスSpoken BNC2014は音声が未公開の上、韻律表記ではなく(正書法による)テキスト表記のため、どのように話されたのかという韻律面を考慮に入れることができなかった。このことは話し言葉研究では克服し難い大きな欠陥となることを、研究成果発表の過程で認識することとなった。今後、このコーパスを用いることの妥当性や適切な使用法について考え、利用可能な他種のコーパスについても目配りしていきたいと思っている。 二点目として、当該年度は新型コロナウイルス感染症の影響で対面授業がほとんど行われず、自らの授業の実践を通して、研究成果を教材や言語活動へどのように取り入れることができるかという考察を深めることが十分にできなかった。一方で、オンラインで共同で進めた教科書編集を通して、話し言葉の特徴を意識させる試みを多少なりとも実現できた部分もあった。次年度は、本研究課題の、言語活動・教材への応用という側面により注力して、話し言葉への意識を高めることによってスピーキングやリスニング能力の向上をはかる効果的な方法を模索していきたい。
|
Causes of Carryover |
当該年度は、新型コロナウイルス感染症拡大のため、国内外の学会や研究会がオンライン開催となり、参加のための旅費が不要となった。図書の購入にある程度は使用したが、旅費のために残しておいたものが余った結果となった。次年度の状況は不透明だが、対面で開催される学会・研究会がある場合は、参加のための旅費に使用したいと考えている。依然としてオンライン中心となった場合でも、図書や最新ジャーナルの購入に充てるつもりである。
|
Research Products
(3 results)