2018 Fiscal Year Research-status Report
義務教育一貫の外国語教育における複言語・複文化主義導入のための総合的研究
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16K02963
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
吉村 雅仁 奈良教育大学, 教職開発講座, 教授 (20201064)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 複言語教育 / 複言語・複文化能力 / 義務教育 / 教員の資質能力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,多言語化・多文化化する学校教育現場,特に義務教育課程において児童生徒の複言語・複文化能力を高めることのできる外国語担当教員を育成することである。そのための具体的目標として(1)小中学校の外国語(活動)教育一貫の児童生徒用能力準拠枠の作成(2)小学校・中学校それぞれの教員用資質能力準拠枠の開発(3)教員用準拠枠に基づく教員対象資質能力育成プログラムの計画・実施・評価(4)プログラム受講者の教育活動変容に関する追跡調査を行うことを設定した。以下その進捗状況である。 (1)に関しては、既に欧州でCEFRを補完するために開発された複言語・複文化教育のための枠組みCARAP(多元的アプローチのための参照枠=FREPA)を参考にしながら、複言語・複文化主義に関わる知識・態度・技能を授業実践の目標として設定することとした。初等教育、中等教育それぞれの段階で小学校教員、中等教育学校教員の協力を得て授業を実践し、児童生徒達の能力特に態度の変化を評価し続けてきている。 (2)については、昨年度、学校教育現場において児童生徒の複言語・複文化能力を高めることのできる外国語担当教員の資質能力の検討に遅れを生じていたが、エジンバラ大学に集中的に滞在することにより、スコットランドにおける複言語教育のための教員の育成枠組みを入手、分析し、初等中等教育の言語教育実践を観察することができた。 順序は前後することになったが、(3)に関しては、既に教員研修の実績を持つフランスストラスブールから研究者を日本に招き、複言語主義の理解やそれに基づく教育実践能力育成のための研修を小中学校教員を対象に実施してきた。 (4)についても、(3)の研修受講者が自身の教育実践の中に複言語主義を取り入れている事例を確認し、当該教員を次の研修の講師に加えるということも試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年は、本務校業務との日程調整の問題で、教員の資質能力に関わる検討が進まず、研究計画に遅れが生じていたが、昨年度は本務校のサバティカル制度を利用し、複言語教育のための教員育成枠組みを既に開発、使用しているスコットランドのエジンバラ大学に長期滞在することで、教員の資質能力に関する検討を進めることが可能となった。その結果、スコットランドの枠組みの経緯・使用の仕方・実践への影響等を精査し、論文にまとめることができた。 これまで、初等中等教育における教育実践とその評価、教員研修の企画実施とその成果は公表してきており、今回、言語教員の枠組みのモデルが新たに見つかり、日本の文脈における応用を検討し始めたことで、今までの遅れはほぼ取り戻したと評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
学校教育における児童生徒の複言語・複文化能力を高めることのできる外国語担当教員の育成という本研究の目的に向けて、最終年度は以下の3点を中心に研究を進めることとする。 (1)初等・中等教育における教育実践の効果の検証:これまで、小学校、高等学校、中学校レベルの順に、複言語・複文化能力育成を目標とする実践を行ってきており、その成果は国内外の学会や論文、著書において発表してきている。最終年度の発表においても、実践の成功例として小学校における取り組みを取り上げ、学習者にどのような変化が生じたのかを明らかにする。 (2)スコットランドの言語教員枠組みに基づく日本の言語教員枠組みの整理:スコットランドで開発された、複言語主義を前提とする言語教育のための教員の資質能力枠組みの背景、趣旨等は既に論文にまとめたが、今後はそれを日本の教員の視点から見つめ直し、日本の文脈に応じた枠組みを検討する。(1)の成果とともに、これについても国際学会(EDiLiC第9回国際大会)で発表予定である。 (3)複言語・複文化教育実践のための教員研修計画:本研究で得られた知見を元に、複言語・複文化教育を日本の文脈で実践できる教員を育成する仕組み、研修内容・方法を検討する。その実施や効果検証については、また新たなプロジェクトを立ち上げて行うつもりである。 なお、本研究では、特に義務教育という場を中心に行ってきているものの、本来はCEFRの基本理念にもあるように、初等、中等、高等教育の公教育はもちろん生涯を通じた複言語・複文化能力育成を見据える必要がある。これについては、昨年度、慶應義塾大学に長期滞在し、「一貫教育における複言語能力養成のための人材育成・教材開発の研究」プロジェクトとの協議を通じて、本研究の位置づけ及び目標の明確化を図っており、今後も複言語・複文化教育に関わる多様なプロジェクトとの連携を視野に入れたい。
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