2021 Fiscal Year Research-status Report
「逆説」のミドルマンーコーカサス総督府通訳官と「オリエント」ー
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16K03002
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
前田 弘毅 東京都立大学, 人文科学研究科, 教授 (90374701)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | コーカサス / ジョージア(グルジア) / アルメニア / イラン / 通訳官 / ミドルマン / 奴隷軍人 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、研究全体の総合化を意図しながら、コーカサス出身者と周辺帝国の関係について特に研究を進めた。主な成果としてはサファヴィー帝国の第5代君主シャー・アッバース一世に関する評伝である『アッバース一世』を山川出版社から上梓した。この中でも特にジョージア/グルジア系軍人集団について詳しく触れた他、アッバースの改革の全体像を描くことで、コーカサス出身マイノリティの果たした役割について論じた。そして、副題にもあるように、海域世界と陸の王権伝統を結んだサファヴィー王権の特徴も明らかにした。また、サファヴィー帝国に関する世界の研究者が集った論文集The Safavid Worldにもジョージア/グルジア人の活動に関する論文を寄稿した(“Against all odds: the Safavids and the Georgians”)。本科研の成果としてコーカサス現地とイラン政権の複雑な交渉過程への考察が含まれる。昨年度に引き続き新型コロナウイルスの蔓延により、直接現地に赴くことは出来なかったが、ジョージア/グルジア国トビリシで開かれた国際会議での報告も行った(“Vakhushti Khan and Georgians in Khuzestan”)。この中でも、イランに移動し、400年にわたって現地で活動しているジョージア/グルジア家系に注目し、特に初代のヴァフシュティ・ハーンの活動について明らかにした。2022年度も引き続き、本科研の課題であるコーカサス地域の多民族社会の形成過程と、自己認識やオリエント表象の問題について考察を重ねていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コーカサス地域の多民族社会形成について、特に周辺帝国との関係の整理が進み、その特徴的なあり方についての考察が進展した。新型コロナウイルスの世界的な蔓延のために、海外での史資料調査と意見交換に大きな支障が生じていたが、新たな参考文献の収集と解析に努め、さらにこれまで長年にわたって収集してきた史資料の整理にも務めた。その結果は研究成果にも記した単著と英文論文に結実したほか、新たな英文論文も執筆も行った。現地調査の有無に拘わらず、コーカサス多民族社会が形成されていった過程における周辺諸帝国との関係やアイデンティティの問題について、本研究のまとめの作業を引き続き進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
収集史資料の整理と読解の作業を進めていく必要がある。とりわけ現地語で書かれた史料について、内容の把握と読解に努めたい。また、通訳官のみならず、様々に現地社会と帝国政治中枢を橋渡しした、あるいは境域社会と帝国中心地を往復した人物の動向について、詳しく検討を重ねる必要がある。この問題に関してはオスマン帝国領内東地中海におけるキリスト教徒臣民についての最新の研究など、周辺諸帝国に関する最新の研究についても積極的に参照し、その成果を吸収しながら、本科研の成果のとりまとめを行っていく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、海外における調査を行うことができなかったため、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(3 results)