2016 Fiscal Year Research-status Report
日本中世の内乱と飢饉・災害の関係の研究──治承・寿永の内乱について
Project/Area Number |
16K03012
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
高橋 昌明 神戸大学, 大学院人文学研究科, 名誉教授 (30106760)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 飢饉 / 災害 / 治承・寿永の内乱 / 田地の損亡 / 荘園制の再建 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の目標は、飢饉・災害史料の収集と読解が第一で、既往の研究のなかで、それらの宝庫である藤木久志氏の編になる『日本中世気象災害史年表稿』(高志書院)を入手し、治承・寿永内乱期とその前後の事象について内容把握につとめた。その外、それにもれている史料を求めて、神戸大学の図書館で関係史料を捜した。また飢饉・災害関係論文を求めた。 一方、文治二年(1186)東大寺再建の用材を切り出した周防の地に重源が足を踏み入れたとき、治承・寿永内乱のため現地の損亡がはななだしく「夫は妻を売り、妻は子を売る。或いは逃亡、或いは死亡、数知らざるもの也、わづかに残る所の百姓、存するが若し、亡きが若し」とあるように、国中の飢人が雲集したという記述に注目した。 そこで現地調査として、彼の周防における足跡をたどった。重源が用材を切り出した杣山(山口市徳地)と彼の遺物を残す寺院、材木を流した佐波川の「関水」などを見学し、さらに重源の活動の拠点となった阿弥陀寺を訪れ(防府市)、切り出した用材に東大寺の焼き印を入れるための鉄鎚印などを見学した。 その外、内乱後検注が各地の荘園で行われている事実は、内乱期に荒廃し収取が不可能になった荘園制の再建のためであろうと想定し、まず近江国石山寺領寺辺荘の建久八年(1197)に実施された正検注(数十年に一度おこなわれる本格的な土地調査)を中心とする文献史料の読解と現地踏査をおこなった。その結果はまだ論文化するにいたっていないが、内乱の痛手からの回復をはかるため「勧農」「撫民」策が意識的に追求されていたことを確認した。 その他、飢饉の原因となる農業用水の欠乏を具体的に考えるため、鎌倉後期に作成された随心院領讃岐国善通寺近傍絵図に記された用水路を現地で確認するために善通寺市を訪れた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度自らの単著『東アジア武人政権の比較史的研究』を刊行した。その主要部は、本研究課題と直接の関連性はないが、その一部に治承・寿永内乱が荘園在地に深刻な疲弊・荒廃をもたらし、そこからの復興が鎌倉時代初期に大きな課題となっていたことを論じた旧稿2篇を収録した。その2篇は実質的に本研究課題の一部をなしており、その内容の再点検・補訂に当初予期しなかった多大な時間がかかり、前記単著は完成刊行したが、本研究課題そのものへの新たな取組が遅れた。それが遅れの大きな原因である。
|
Strategy for Future Research Activity |
治承・寿永内乱が終息すると同時に、荘園体制再建の努力がはじまる。高野山領備後国大田荘、頌子内親王領紀伊国南部荘、九条家領越後国白河荘、松尾社領丹波国雀部荘、興福寺領大和国池田荘、同出雲荘、東寺領伊予国弓削島荘などなどである。このうち最初の二つの荘園についてはすでに論文として発表しており、自著『東アジア武人政権の比較史的研究』にその改訂・増補したものを掲載した。残るその他の荘園を選んで、具体的に同様の考察を行って、戦乱と飢饉・災害の関係について、新たな視点を獲得する予定である。とうぜん現地の踏査を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、学会出張・史料調査・現地見学などが十分にできていない結果であり、それはおもに旅費の部分に現れている。次年度はこの点に重点を置きたい。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降史料調査・現地見学の遅れをとりもどすため、東大史料編纂所・国立歴史民俗博物館など関東方面への出張、摂関家領白河荘など新潟県阿賀北地方、京都府福知山市の松尾社領丹波国雀部荘、奈良県の興福寺領大和国池田荘、同出雲荘、愛媛県の東寺領伊予国弓削島荘などの調査を行う予定である。
|