2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03014
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
河上 麻由子 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (50647873)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 天下 / 仏教 / 『広弘明集』 / 転輪聖王 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度には、南北朝時代から唐初までの中国における天下観と仏教の関係を知るのに重要な情報を提供すると考える、『広弘明集』について考察を深めた。『広弘明集』は、平安期以降日本の各地で書写された古写経中に複数巻残っている。かつて日本古写経は、版本系一切経の粗雑な写本と考えられていた。しかし今年度の調査により、日本古写経中の『広弘明集』には、唐皇帝の諱を別字に書く、乃至、欠筆する個所が多く存在することが分かった。他方、宋皇帝の諱について、欠筆・避諱は全く見出せない。加えて、古写経中『広弘明集』にのみ欠ける文章が複数存在することから、古写経中『広弘明集』の祖本は唐代に書写され日本に請来されたテキストである可能性が大きいことを指摘した。今後は、古写経中『広弘明集』と版本系一切経中『広弘明集』との差異に留意しながら、テキストの講読を進めるべきである。 また先行研究では、須弥山と四つの「天下」(=大陸の意)により構成される仏教的世界観は、儒教的天下観に基づく中国の「天下」(皇帝の支配領域)とは異なる「天下」の構想を古代日本に促したと考えることがある。しかし、金輪聖王と称讃された梁の武帝は、金輪聖王が四つの「天下」を支配すると経典に説かれたのに対し、儒教的な「天下」の支配者にとどまった。とすれば、儒教的・伝統的な中国の「天下」とは異なる「天下」を、仏教を思想的基盤として、古代の日本が構想することが可能であったのかについては再検討が必要となろう。今後は、転輪聖王と称讃された皇帝を網羅し、同様の文脈において皇支の支配領域がどのように表現されるのかを分析した上で、日本古代の「天下」について考察するべきである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古写経中『広弘明集』の写本系統について豊富な知識を得ることができた。ただし、古写経の調査に多くの時間を割くこととなり、調査を踏まえた史料の分析は十分には行えていない。 また現在、南北朝時代から隋唐にかけて使用された「天下」の事例を収集し、周辺諸国に与えられた詔勅については重点的な分析を加えている。同時に、天下の中心であった都城内に建立された寺院の踏査も進めている。ただしいずれも論文化には至っていない。 以上の理由から、おおむね順調に進展している、と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、第一に、文献に使用された「天下」を網羅的に収集し分析を加えることで、漢滅亡以降、唐成立以前における「天下」の本義を確定させる。その際、皇帝による実効支配が成立した領域に、冊封関係の成立した範囲を加えた領域を「天下」と見做す研究動向に留意する。 第二に、中国・韓国の都城と都城内寺院について踏査を通じた考察を深める。その際、特に九重塔の存在に注目する。『広弘明集』などの史料に、「九級塔」が皇帝による崇仏の象徴として語られる事例が複数見出せるためである。文献史学・考古学の成果も盛り込んで論文化を目指す。 第三に、日本古代金石文中に登場する「天下」の意味について、同時代の中国における用例、冊封体制と「天下」の関係を踏まえて再検討を加える。
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Causes of Carryover |
今年度は、欧米での研究発表を計画していたが、中国の学会に招聘されることが多かった。国内学会でも口頭報告やコメンテーターをつとめるなどし、欧米の学会へ参加する時間を確保することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究遂行上必要な図書が多く刊行されているので、残額はその購入に使用したい。
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Research Products
(6 results)