2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03037
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
引野 亨輔 千葉大学, 文学部, 准教授 (90389065)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 藩権力 / 史蹟顕彰 / 地誌 / 由緒書 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、水戸藩が領内で行った史蹟顕彰に注目し、その影響力が地域社会へどのように浸透し、また変容したかを考えるものである。そこで、初年度に当たる平成28年度には、徳川ミュージアム所蔵の「開基帳」を使用して、宗派を浄土宗・浄土真宗にしぼり、江戸時代前期段階における由緒書の内容把握につとめた。さらに、茨城県立歴史館所蔵の前田恒春家文書や普門寺文書、常福寺文書などを使用して、江戸時代中後期以降における寺社の興廃状況を調べ、前期段階との比較分析も試みた。 以上のような作業から、徳川光圀により寛文年間(1661~1673)に実施された寺院整理の政策意図がある程度明らかになった。光圀の排仏思想に基づいて推進されたとされる寛文年間の寺院整理だが、実際には早い段階から由緒寺院(もしくは光圀が由緒正しいと評価した寺院)の援助も精力的に行われている。浄土宗の常福寺や、浄土真宗の願入寺などが、著名なケースである。願入寺の場合、光圀の指示でわざわざ東本願寺法主の息子を婿入りさせ、由緒寺院としての格式を補強しているし、その願入寺からの要請で、報仏寺という新寺の創設が認められていることも注目される。また、寺院整理後に地域社会の要請で新しい寺院が創設されるケースや、廃寺が再び復興されるケースも、いくつか確認できた。 今後は、水戸藩によって由緒を喧伝された寺社が、領内の地域住民にどのように受け止められ、またいかなるルートで領外にまで知られていったのか、丹念に検討を加えていく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書の段階で平成28年度に予定していた作業は、徳川ミュージアム所蔵の「開基帳」を閲覧し、江戸時代前期における水戸藩領内の寺院・神社の開基年代や檀家数ならびに氏子数を徹底して把握・分析することであった。しかし、東日本大震災復旧工事に伴うレファレンスルームの一時休室で、28年度内に「開基帳」を閲覧することができなかった。このことは、研究推進にとって大きな痛手であったが、事前の調査で浄土宗・浄土真宗に関しては「開基帳」の閲覧を済ませていたため、その際の収集データによって一定度の作業は進展できた。また、茨城県立歴史館所蔵の前田恒春家文書や普門寺文書、常福寺文書などの史料調査を合わせて実施したため、江戸時代中後期以降の水戸藩領における寺社分布は、網羅的に把握することができた。 収集した史料の解読や分析にあたっては、研究計画書で申請した通り、千葉大学の大学院生に協力を要請し、円滑な作業を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度はおおむね順調に研究計画を推進できたため、次年度以降も計画書に従って作業を進める。具体的には、徳川ミュージアム所蔵の「開基帳」閲覧が可能となる平成29年10月以降に、浄土宗・浄土真宗以外の由緒書について、データ収集を再開する。茨城県立歴史館への史料調査も引き続き実施し、藩領民の史蹟認識がうかがえる史料の掘り起こしにつとめたい。 さらに平成29年度からは、二十四輩寺院(親鸞高弟が関東において開基した由緒寺院)の参詣案内記収集も開始する。藩権力の史蹟顕彰を発端として著名化した名所・名勝は、藩領内にとどまることなく、商業出版を通じて全国的に知れ渡っていく。そこで、参詣案内記を分析することにより、藩権力の史蹟顕彰がどのように受容され、また変質させられるのかを、明らかにしたい。 なお、研究計画段階では意図していなかったことだが、二十四輩寺院を参詣した僧俗の旅日記が残っていれば、それらは本研究課題にとって、きわめて重要な史料となる。そこで、旅日記史料の収集も可能な限り行いたい。
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Causes of Carryover |
当該年度中に使用できない額(495円)がわずかに生じたが、研究計画の大幅な変更等に伴うものではなく、誤差の範囲内と考えている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の予算執行を、計画通りに進めつつ、随時物品費の補助として使用する予定である。
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