2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K03038
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 伸之 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (40092374)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 江戸の周縁社会 / 社会=空間構造 / 身分的周縁 / 分節的把握 / 地帯構造 / 民衆世界 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、巨大城下町江戸の近郊地帯に注目し、特に旧荏原郡東半域(品川領・六郷領)を素材として、当該地帯の分節的な社会=空間構造を包括的に解明し、全体史叙述への見通しを得ることを課題としている。初年度である2016年度は、当初の「研究の目的」に掲げた4つの具体的課題の内、特に「品川猟師町と海苔をめぐる「海」の社会構造」分析に重点的に取り組んだ。主たる成果は以下のようである。 ①基礎史料の収集と分析を進めた。なかでも羽田村の海苔関係史料である「武州羽田海苔場願書外十五種」全十五冊(東京国立博物館所蔵)を見いだし、未翻刻部分の全文翻刻と基礎分析にむけての作業を進めた。 ②旧六郷領関係について、大田区郷土博物館所蔵史料の把握に着手し、八幡塚村関係史料の全体像把握に取り組んだ。 ③『品川町史』全3巻収録史料のリスト化にむけて、前研究(2013~2015年度・基盤(C)「近世品川宿村の分節的な社会=空間構造に関する基礎的研究」)で残した作業を進め、全体の4割程度の目録作成に至った。 ④「地帯構造」分析を掲げる本研究テーマとの関わりで、「都市史学会」傘下の史料研究会や「三都」研究会で、他の事例との比較史的考察をめぐっての議論を深めた。また、滋賀県野洲小澤家文書、静岡県諸子沢佐藤家文書、長野県下伊那郡阿智村清内路・土佐屋文書などの調査を同時に進め、諸地域の複層から構造化される「地帯」構造分析方法の検討と、相互の比較類型把握をすすめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題の内、「海」をめぐる社会構造分析に関しては、史料素材を豊富に収集することができ、予想以上の成果を上げた。一方で、旧六郷領関係の史料素材については、羽田村関係史料を除き、まだ十分な成果を得られていない。また研究成果の論文化による公表については、準備がやや遅れ、年度内の目標を十分達成できなかったが、内容的には準備が整いつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
近世後期の品川領と六郷領を対象として、当該域の地帯構造に関する全体史叙述にとりくむという目標を前倒しにし、本研究期間内に達成すべく、諸課題の重点を再検討中である。特に、大井村関係、南品川関係、三大森村関係史料の収集と分析を急ぎ、課題の推進と目標の実現に努めたい。
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Causes of Carryover |
初年度の研究計画の内、下記の課題について十分取り組めなかったことによる。①南品川宿村の地帯構造分析に関する基礎史料の収集と分析。なかでも二日五日市村や品川猟師町に関する諸史料の収集が未達成の課題として残された。またこの作業の基礎となる『品川町史』史料データ作成の過半が未遂行である。②大田区立郷土博物館所蔵史料の博捜が未着手である。③当初企画したウィーンの都市周縁部との比較類型把握に関するセッションが、共同研究を予定していた国内研究者の体調不良により、未着手のままである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度から繰越した課題①~③については、当初計画に即して研究を遂行する。この内、③については、他国(フランス・パリ、あるいはアメリカ合衆国・ニューヨーク)との比較類型把握への変更も検討する。また第二年度については、当初の研究計画に掲げた課題の内、特に品川猟師町、三大森村、羽田村・同猟師町をめぐる海苔生産と流通構造の研究をさらに深めることを最重要の課題とする。
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