2017 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半期における世界交通革命の進展と日本-開国・開港の再考-
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16K03040
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
小風 秀雅 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (90126053)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 開国 / 日米和親条約 / 高島炭鉱 / 交通革命 / 石炭輸出 / トマス・グラバー |
Outline of Annual Research Achievements |
1853年におけるペリー来航とその後の和親条約締結交渉において、アメリカ側が日本産石炭の入手に高い関心を示していたことから、アメリカの対日関心の中心が日本の開国による貿易の開始にあるのではなく、汽船による太平洋横断定期航路の開設のため、燃料としての石炭の確保にあることが明確になった。アメリカの最大の利害は、ヨーロッパに対して、アメリカが圧倒的優位に立つことができる太平洋航路の実現であり、そのために不可欠な日本沿岸における航海の安全の保証(日米和親の確約)と、汽船の燃料として、アジア地域で唯一産出される優良な日本炭を入手することであった。 この後者の側面を実証するため、本研究では、優良炭鉱として代表的存在であった高島炭鉱の実態の究明を進めてきた。その結果、幕末・明治初期に高島炭鉱を経営した佐賀藩の史料である、鍋島奉効会所蔵の鍋島家文書を分析し、これまでグラバーに焦点が当たっていた炭鉱経営に佐賀藩が積極的な役割を果たしていたことがことが明確になってきた。開港当初に供給された日本炭は、必ずしも列強の期待に応える品質ではなかったこと、高島炭鉱が本格的に稼働を始めてから、日本炭に対する評価が急激に高くなったこと、イギリス側が炭鉱経営に積極的な姿勢を示したが、日本側が自前での開発を進めて、石炭生産を拡大していった経緯も明らかになって来ている。 その過程で、廃藩以後における高島炭鉱の経営と産炭状況について解明する必要性も明確になってきた。そのことは、これまで「鉱山王有制」とされてきた明治初期の外資排除政策の新たな側面を解明する手がかりとなるであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一の課題である高島炭鉱の開坑の経緯について、グラバーと佐賀藩との交渉経過及び初期の経営状況について、明らかになりつつある。これまでは、佐賀藩側の史料の一部しか利用されていなかったが、鍋島家史料を丁寧に分析することによって、炭鉱を所有する佐賀藩が資金を提供するだけでなく、開発にも深く関わっていたことが明らかになった。 そのことは、廃藩後における炭鉱経営の動向を明らかにする上で重要な論点となるので、日本坑法による強制的な外国人排除政策とされる高島炭鉱からの外資排除の評価にも関わってくる可能性があり、論点がより広がりを見せてきている。ただ、この問題については、外国側の史料が少ないので、新たな史料発掘の必要性が課題として浮かび上がってきている。 第二の課題として、石炭輸出に関する外交交渉については、英米の議会文書、外交史料の分析を進めている。石炭輸出の要求がアメリカだけの問題ではなく、イギリスも積極的な動きを示していたことが明らかになってきている。今後は主にイギリスとの交渉の実態について、さらに分析を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の課題として以下の二点が挙げられる。 第一に、佐賀藩による高島炭鉱の経営の実態を一層明らかにすること、第二に、廃藩以後の高島炭鉱の経営をめぐる政府、外商、後藤象二郎、三菱などの関係を、石炭生産の視点から、明らかにしていくこと、である。第一の課題については、これまでの史料調査を継続し、鍋島家の史料分析を通じて、佐賀藩の炭鉱経営の実態をさらに解明する。高島炭鉱では多くの坑道が開鑿されたので、その経緯も明らかにする。第二の課題については、三菱史料館などにおける岩崎弥太郎関係の史料調査を進め、これまで外資排除という対外対抗の側面から分析されてきた鉱山王有制の経済的側面について分析を進め、高島炭鉱の生産の実態を明らかにしたい。 そうした課題を踏まえて、日本の石炭生産の歴史的意義を明らかにしていきたい。石炭は輸出品としての位置づけは必ずしも高くないが、単に数量・金額からみるだけでは評価しえない面が大きい。輸出炭に日本の開港場で海外航路用燃料として売却された石炭を加味すれば、その金額は統計上の数値より大きくなることが容易に想定される。日本の開国を推進し、1870年代に急速に進展した交通革命を東アジアから支えた貴重な国際的な戦略物資としての側面を明確にしていきたい。
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Causes of Carryover |
当該年度に計画していた英国調査が実施できなかったため、急遽マイクロフィルム化された英文史料のデータ化に切り替えた。そのため、物品費が膨らむ一方、旅費の使用が進まなかった。また史料のデータ化への着手が遅れたため、費用の算出が遅くなり、年度内での使用額が確定しなかったため予算執行が進まず、結果として次年度使用額が生ずることとなった。 次年度においては、英国調査の実施と並行して、国内での外国資料の収集を進めて、効率的な執行を心掛けたい。次年度使用額は、英国調査に相当する国内での外国史料の調査・収集費に充当することとしたい。
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