2017 Fiscal Year Research-status Report
有末機関の研究-有末精三新史料から見る占領初期のGHQと日本陸軍-
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16K03046
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
河島 真 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (00314451)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 有末精三 / 有末機関 / 占領 / 進駐軍 / 陸軍 |
Outline of Annual Research Achievements |
有末精三『横浜機関書類』『備忘録』の翻刻を完了し、関連史料の調査と注記・解題の作成に当たってきた。 現在までのところ、進駐直後のアメリカ軍との交渉に当たる有末機関の喫緊の課題が次の五つであったことがほぼ明らかとなった。第一に、続々と押し寄せるアメリカ軍人の宿営と給養の確保、第二に、アメリカ兵による不法行為への対応(『横浜機関書類』によれば「拳銃、軍刀等の略奪」など深刻)、第三に、神奈川県及び東京都の憲兵の武装解除が要求されたことに端を発する軍人佩用の軍刀等の取り扱い、第四に、連合国軍俘虜の解放、第五に、軍の解散と復員によって放棄された大量の武器と軍需品の処理である。 加えて、最高司令官が東京に移動する9月中旬以降、アメリカ軍から、アジア・太平洋戦争中の日本軍の活動の実態についての照会が増えていることが注目される。具体的には9月18日に、①細菌戦・化学戦関係(「細菌戦、化学戦、主任者ヲ出セ」)、②風船爆弾関係(「ふ号ノ責任者」)、③暗号関係(「暗号組立作成関係者」「作戦開始以来ノ暗号書及関係アル暗号書類」)についての情報提供が相次いで求められた(『備忘録』)のを皮切りに、有末機関では関係する軍部各所と連絡を取り合いながら検討を開始した。①については、「防疫給水部石井中将」(敗戦時に関東軍防疫給水部(通称「七三一部隊」)長だった石井四郎)の名前が、陸軍側から提供されていたことが興味深い点である。③については、「陸軍暗号書組立関係者」は「開戦以来ノ作戦暗号書類」を携行して出頭するようにとの指示が出されたものの、その後海軍で暗号書を勝手に焼却する事件が起こり、焼却した少佐に禁固三年の処罰が下される事件が発生したことなどが分かった。 今後は、関連史料との照合を進めながら、さらに二つの史料の概要解明に努めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)『横浜機関書類』『備忘録』の翻刻は完了した。判読できない文字も多かったが、ひと通り翻刻を終えた後にさらに読み直しを行うなどして、ある程度補うことができた。 (2)国立国会図書館憲政資料室で、『有末精三関係文書』の二度目の調査を行い、参謀本部第二部長を務めていた敗戦直前の日記・メモを入手することができた。戦後の有末の思想変転を理解する前提として参考になるものであった。また、防衛研究所戦史研究センターにおいて史料調査を行い、『終戦事務局報綴』(2冊)、『終戦関係綴(小長谷睦治)』、『終戦委員会綴』、『終戦委員会関係綴』、『政府大本営連合国最高司令官間連絡事項』など12冊の簿冊から本研究に関係する部分の写しを入手した。 (3)獨協大学法学部福永文夫教授ほか戦後史研究者から参考意見を聴取した。特に福永教授からは、占領初期のアメリカ軍の動向をうかがうことができる貴重な史料(写し)の提供を受けた。 (4)アジア歴史資料センターのウェブサイト上に公開されている史料の収集に努めた。前年度は、1945年10月以降の史料を重点的に調査したが、今年度は8月から9月にかけての『連合軍司令部ノ質問ニ対スル回答文書綴』(8冊)、降伏文書調印までの動きを克明に記した文書綴『連合国側要求ニ関スル綴(塩田中佐)』、降伏文書調印後の進駐軍の動向を報告する『進駐軍トノ連絡ニ関スル報告』など、本研究にきわめて重要な史料を入手した。特に最後の簿冊は、『横浜機関書類』『備忘録』の内容と符合する箇所が多く、史料の内容解明に大いに役立っている。 (5)解題作成を兼ねて研究の途中経過を「『有末機関』についての覚書」(『神戸大学文学部紀要』45、神戸大学文学部、2018年)にまとめた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.4~9月 『横浜機関書類』『備忘録』でまだ読めていない文字があるので、できる限り正確な翻刻ができるよう努める。『終戦事務局報綴』(2冊)、『終戦関係綴(小長谷睦治)』、『終戦委員会綴』、『終戦委員会関係綴』、『政府大本営連合国最高司令官間連絡事項』、『連合軍司令部ノ質問ニ対スル回答文書綴』(8冊)、『連合国側要求ニ関スル綴(塩田中佐)』、『進駐軍トノ連絡ニ関スル報告』など新たに入手した史料、さらに新聞記事等を検討し、注記と解題の作成を進める。 2.10~3月 注記と解題を完成させ、占領初期の日本陸軍とアメリカ軍との関係に関する論文を執筆する。その間に、占領期研究者からの意見を求めたい。史料の翻刻は画像処理ソフトによりページごとに元のレイアウトになるべく忠実な形になるよう編集しているので、ページごとの注記をそれに対応させてレイアウトし、さらに全体をつらぬく解題を完成させて、報告書を作成する。その内容は、刊行準備あるいは少なくともWeb上に公開できるよう準備を進める。
なお、『横浜機関書類』『備忘録』の所蔵者宅に、ほかにも有末が収集した史料、書籍が保管されていることが分かったので、次の申請に向けて、簡単な概要調査を行いたいと考えている。
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