2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K03047
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
鈴木 則子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (20335475)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 女医 / 産科 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は昨年度に引き続き女性医療者による婦人科系治療の史料を収集・分析するとともに、疾病における女性性(ジェンダー)の問題について検討を加えた。 特に前者の課題については、大坂の医師番付に記載される女医の記録から、女性医療者の活動について考察を行った。調査対象とした医師番付は寛政から明治迄の45点である。 そのなかで女医の初出史料は、弘化2年(1845)出版「当時流行町請医師名集大鑑」である。「老松」という町名とともに「○ 女 あだち」とある。「○」はこの番付表の中で「本道」を意味する印で、女医「あだち」氏は内科医であったことがわかる。 7年後の「嘉永五年(1852)霜月新梓 浪花当時発行町請名医集」では、女医は4名に増える。すなわち「鍼 松江丁 うさぎ針」「諸病見立 老松丁 あだち」「按腹 塩心斎 玉野氏」「按腹 二ツ井戸一丁西 宮川京」である。4名列記したうえで「此先生方、何れも女医師名家なり」と添え書きがあり、全員が「女医師」であることを確認できる。「うさぎ針」と呼ばれた小児鍼を得意としていることや、「按腹」という産婦への施術を標榜科としていることから、「女医師」の診療対象が主に子供と女性であったことがうかがわれる。また、あえて番付表の中に「女医師」というカテゴリーを作成しているのは、女性患者が女医を選んで受診する傾向があったことを示唆する。 しかしながら明治以降の番付表には「女医師」のカテゴリーがなくなるとともに、これらの女医たちの名前はもちろん、鍼灸や按摩術に類する標榜科もなくなる。かつて女性の身体的不調を扱ってきた医療領域は西洋医学の導入によって医療として認められなくなった。このことは江戸時代の医学に基づいた女性の身体経験が、新たな近代医療のパラダイムの中にからめとられていくことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
女医に関する史料収集と分析については「江戸時代の女医」(『洋学史通信』29)として発表し、女性と疾病におけるジェンダーの問題については「「須佐之男命厄神退治之図」(葛飾北斎画)に描かれた病」(『浮世絵芸術』175)として発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は中国医学と日本医学の、婦人疾患に対する認識や女性に対する医療の在り方について比較を行う。また、近世の随筆をはじめとする文学資料を通じて女性身体や疾病に対するまなざしを抽出する。さらに江戸時代と近代との婦人科医学の比較も行う。
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Causes of Carryover |
国内資料調査に予想以上に時間がかかり、海外調査に行く時間が取れなかったため。 次年度の調査費用にまわす。
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Research Products
(4 results)