2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03049
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
布川 弘 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (30294474)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ヒロシマ / 復興 / BCOF / non-fratenity / GHQ |
Outline of Annual Research Achievements |
台湾中央研究院に於て、2016年9月30日から10月1日にかけて開催されたアジア医学史学会第8回大会(The Eighth Meeting of the Asisan Society for the History of Medicine)において、9月30日Current session Fにおいて、'Hygiene modernity of Japan as ambition not to come true'というテーマで報告した。内容は、オーストラリア戦争記念館が所蔵する英連邦軍(BCOF)の史料を主として用い、敗戦直後における広島・呉と周辺地域における性病の実態から、公衆衛生の特徴を浮き彫りにし、復興の前提となった社会の実情に迫ろうとしたものである。性病感染率の高さは戦前の陸海軍において悩みの種であり、公衆衛生に最も鋭敏で先進的な政策を実行していた軍隊において、大きな問題点となっていた。敗戦直後、占領軍がその問題点に逢着することになり、英連邦軍に於ける性病感染率の高さが本国でも大きな問題となった。兵士たちの性病は日本人売春婦が感染源とみなされたが、軍と買売春及び性病の蔓延という構造が、より深刻な形で、敗戦後も継続されることになった。そこには、西欧に真似て厳格に構築されたかに見える公衆衛生の破綻が、構造的な問題として継続して存在したことが明らかとなり、報告では、それが社会的な特性の問題であったことを強調した。復興の医学社会史を考察する際、この点は最も大きな問題として突きつけられていた。また、英連邦軍は性病との結核の罹患率の相関関係について触れており、総合的な国民の健康状態を前提として公衆衛生の問題として提起されることとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、第一に,オーストラリアに於ける戦後日本史の研究業績を蒐集し,内容を読み解いた上で,特徴をまとめる。2012年度から2014年度までの基盤研究(C)によって,最も基本的な著作の蒐集はほぼ終わっているのが,引き続き雑誌論文や博士論文の類まで対象を拡げて蒐集し,80%の達成率を目標とした。雑誌論文や博士論文の主要なものを検索し、目標に到達する段階まで蒐集することができた。第二に,オーストラリア国立図書館(National Library of Australia),オーストラリア国立公文書館(National Archive of Australia),オーストラリア戦争資料館(Australian War Memorial)などが所蔵する日記・書簡類の調査を目的とした。これも2012年度から2014年度までの研究の段階でいくつか蒐集しているが,まだ充分な量に達していないので,オーストラリアの現地調査に時間をかけ,50%の達成率を目標とした。この点については、台湾での学会報告に重きをおいたこともあり、取り組むことができなかった。第三に,広島県内の様々な図書館や資料館の調査,国立国会図書館の調査などの国内での調査を行う。とりわけ,GHQ関係資料は,占領の全体政策などを見る上で不可欠であり,国立国会図書館に所蔵されている基本資料の調査と蒐集に力を注ぎたい。この点に関しても,2012年度から2014年度までの基盤研究(C)によって,いくつかの史料を蒐集しているが,50%の達成率を目標とした。本年度は国立国会図書館のGHQ関係資料の検索を継続し、ほぼ目標を達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成 28 年度と同様,第一に,オーストラリアに於ける戦後日本史の研究業績を 蒐集し,内容を読み解いた上で特徴をまとめる。昨年度からの予備調査と 2012 年度から 2014 年度の調査によって,基本的な著作の蒐集は終わっている予定であり,雑誌論文や博士論文の類 に集中して蒐集し,100%の達成率を目標としたい。第二に,オーストラリア国立図書館(National Library of Australia),オーストラリア国立公文書館(National Archive of Australia),オー ストラリア戦争資料館(Australian War Memorial)など所蔵する日記・書簡類の調査を行う。 これも予備調査の段階と 2012 年度から 2014 年度の調査で蒐集しているがオーストラリア の現地調査を完遂し,100%の達成率を目標としたい。第三に,広島県内の様々な図書館や資料館 の調査,国立国会図書館の調査などの国内での調査を引き続いて行う。GHQ 関係資料は,平成 28 年度の調査で主要な資料の調査と蒐集に目途をたてたいが、まだかなり不十分な部分があると考 えられるのでその作業を進め,80%の達成率を目標としたい。
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Causes of Carryover |
本年度予定していたオーストラリアでの調査が、諸般の事情で実行できなかった。そのために、執行すべき予定だった旅費が執行できなかった。そのような事態に立ち至った一つの理由は、2016年9月30日から10月1日に開催された台湾の中央研究院におけるアジア医学史学会において報告する機会が与えられ、それに応じた結果、予定分の海外旅費の相当部分を費消してしまい、オーストラリア調査にあてる旅費を充当できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実行できなかったオーストラリア調査を実施する。また,2017年7月6日から7日の間、オックスフォード大学(UK)において医学社会史に関するWelcome UnitとKyung Hee Universityとの共同セミナーにおいて、日本の軍隊と公衆衛生に関する報告をする予定である。この報告は、復興の社会史研究の基礎的な認識を形作るうえで重要であるため、エントリした。この二度の海外渡航費として充当したい。
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