2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03068
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宮崎 聖明 北海道大学, 文学研究科, 専門研究員 (80455617)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 胥吏 / 吏員 / 明代 / 人事制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画は、明代中国の地方官庁における胥吏について、その集団構造、人事制度・統制策の実態などを明らかにすることを目的とするものであるが、本年度はこのうち、人事制度の運用実態及び胥吏集団の構造について研究を進めた。 対象としたのは明代末期・広東と、明代後期・遼東の事例である。まず明末広東については判牘・地方志を手がかりに、吏員(正規胥吏)の人事制度の詳細とその運用実態について考察した。その結果、①選抜が捐納中心になったため吏典缺(ポスト)に比して吏員資格所有者が増加し、官庁に配属されても缺が空くまで待機(候缺)する必要があり、②候缺吏員は、属性に基づき分類された「行柱」というカテゴリに分けられ待機リスト(参吏簿)に載せられ、空き缺が生じると順に缺に充てられ(参充)、③そのため缺が空いてはじめて配属官庁において就任者が決定されたことを明らかにした。また、以上のような運用の結果、④吏員という身分区分は「吏典」「候缺吏員」の二種類の実体によって構成されるものであることを指摘した。以上の成果を、学術論文「明末広東における吏員の人事・考課制度―顔俊彦『盟水斎存牘』を手がかりに―」(三木聰 編『宋-清代の政治と社会』東京:汲古書院、2017年2月)として発表した。 また、広東の事例との比較やその補完のために、明代後期・遼東における吏員人事制度についても考察すべく、档案史料の収集と分析を進めた。その経過を、二つの学会発表「明代後期地方衙門における吏員人事制度の運用実態―遼寧省档案館蔵明代档案を手がかりに―」(平成28年度北大史学会大会、北海道札幌市北海道大学、2016年7月23日)、「明代後期遼東における吏員人事―遼東都指揮使司档案を手がかりに―」(共同シンポジウム 中国専制国家と官僚制―『六典』的世界の形成と変容―、富山県富山大学人文学部、2016年11月26日)において報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は、判牘(裁判史料)・档案(公文書)の二種類を主要な史料源として遂行するものであるが、そのうち明末広東における胥吏人事関連判牘はおおむね収集・読解・分析を終了した。明末の判牘集である顔俊彦『盟水斎存牘』には、吏員人事をめぐる裁判史料が数多く収録されており、本年度はその読解・分析を進めた。【研究実績の概要】記載の学術論文はその結果に基づくものである。今後、非正規胥吏の存在形態や吏員との関係性について考察を進める予定であるが、そのための史料も読解・分析済みの判牘に多く含まれており、次年度以降の研究成果発表に向けて主要史料の収集・読解はほぼ終えているという状況である。 また、档案史料についても、明代後期遼東に関する档案については収集を終えており、目下その読解・分析を続行中である。その経過は【研究実績の概要】記載の二つの学会発表において報告した。ただ、関連档案を整理・刊行した『明代遼東档案匯編』及び『中国明朝档案総匯』には錯簡や字句・紙片の脱落など問題が多く、利用にあたって校訂作業が必要であり、現在その作業を進行中である。作業を終えた後、改めて収集データの分析を行い、明代後期遼東における吏員人事制度の詳細について考察を進めることとしたい。その成果の公表の場として次年度の学会発表も確定している。さらに発表の成果をふまえて次年度以降の学術論文発表に向けて準備を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策については、読解・分析済みの判牘史料に基づく研究成果を学術論文の形で発表すること、及び档案史料の読解・分析をさらに進め、学会発表・学術論文の形で発表すること、以上の二点が挙げられる。 まず判牘史料に基づく研究であるが、本年度において発表した学術論文は、正規の資格を有する吏員(吏典・候缺吏員)を考察対象とするものであった。これに加えて『盟水齋存牘』には、正規の資格を有しないが吏典に使役される「書弁」「書役」という存在が登場する。胥吏相互間に徒弟制度的関係があったことは夙に先行研究の指摘するところではあるが、当該判牘の記述からは、従来の理解により具体的な内容を加えうる、あるいは従来の理解と異なるあり方を示す要素が抽出できた。今後はこれらの史料をもとに、非正規胥吏の実態や吏員との関係について考察を進め、その成果を発表することを目指す。 次に档案史料についてであるが、本年度の二つの学会発表による成果をふまえて、さらに史料の読解・分析を進める予定である。本研究計画において使用する档案「遼東都指揮使司档案」には吏員の名簿や人事をめぐる問題を処理した際の公文書が収録されている。その記載内容からは、吏員の人事決定方法や、吏員の本籍地・年齢、捐納額などの情報を抽出することが可能である。加えて、広東と遼東、明末と明代後期・嘉靖年間とでは、人事制度の運用実態に違いが見られるようである。また、広東の判牘には見られなかった特殊な事例も档案からうかがえる。これらを利用することで、今後は広東の事例との比較やその補完を進める予定である。
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Causes of Carryover |
海外における資料調査を予定していたが、現在手元にあり利用可能な資料の読解・分析を優先したため行わなかった。調査に伴う資料整理のために人件費・謝金及びその他の費目に予算額を計上していたが、上記の理由により実支出が発生しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
海外における資料調査については、遼寧省档案館における档案史料の調査を行う計画である。また、国内における学会発表を予定しており、そのための旅費に充当する予定である。加えて、関連分野の研究書購入の物品費も引き続き必要であり、こちらにも使用する予定である。
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