2017 Fiscal Year Research-status Report
10世紀前後のクルグズ可汗国の定住的要素に関する碑文・遺跡調査と歴史文献学的研究
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16K03081
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大澤 孝 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (20263345)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イェニセイ・クルグズ可汗国 / 古代テュルク・ルーン文字碑文 / テプセイ山 / クニャ山 / 北ハカス地方 / タムガ / アバカン / ミヌシンスク |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、平成29年4月24日-5月7日の期間に、ロシア連邦ハカス共和国に出張した。そこではこれまで大阪大学言語文化研究科とハカス言語・歴史・文学研究所との学術協定に基づき、ハカス共和国のアバカン市とミヌシンスク市を始めとするそれら周辺の山岳地帯や草原地帯において、上記のハカス言語・歴史・文学研究所の研究員と野外調査を実施した。 今回の調査では、まず、ミヌシンスク地方のテプセイ山のイェニセイ河右岸の岩壁地帯の岩壁碑文、北ハカス地方のイェニセイ河中流域の右岸の山岳地帯で、岩壁画や岩絵銘文、タムガを探査した。北ハカス地帯のウルジー山の中腹地帯の岩壁画やタムガは既に報告があるものの、より詳細な調査を行うことで、クルグズ可汗国時代の新たな岩壁画を含む新資料を収集することができた。ここでは、イェニセイ・クルグズ可汗国時代によく見られるタムガを確認できたが、このことは同地方がクルグズ可汗国の疆域に含まれていたことを伝えるものである。 また、北ハカスの草原では、現地情報に依拠しつつ、新たな銘文を発見・試読した。そこでは古代クルグズ族に特徴的なタムガ(部族の標章)も数点発見し、これまで公表されたタムガと比較検証を行った。一方、アバカン地方では、古代クルグズ可汗国時代に城塞として利用されたと考えられるクニャ山に登り、岩壁画やタムガの関係資料を蒐集した。 ミヌシンスク地方のテプセイ岩壁銘文についても、再調査を実施し、それらの読みを検証する作業を行った。 上記の野外調査の他にも、アバカン市の歴史文化博物館でも関連する石碑の調査を行い、写真撮影など実施した。またアバカンのハカス言語・歴史・文学研究所の付属図書館でも、古代テュルク時代の歴史・考古資料について、資料蒐集を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は現地の研究機関・研究者との共同野外調査をメインとしており、現地の研究機関や研究者からの献身的な支援を得られたおかげで、研究は概ね順調に進展している。ただし、本地方での野外調査を行う期間が限られており、現地訪問時の天候や自然現象に左右されることも多い。今年に限って言えば、極めて風雪が多く、2~3日は野外調査を断念しなければならなくなる事態にも出くわした。 そうした状況下においてでも、今回の調査では、アバカン市やミヌシンスク市方面の岩壁や山岳地帯で新たなイェニセイ碑文断片やこれらと同時期に掘られたタムガを複数、発見できたこと、また関係諸機関でクルグズ時代に関連する碑文・遺跡資料を蒐集できたことは、今後の本調査研究にとって極めて有意義であるといえる。そうした点を考慮すれば、本研究は概ね、順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究についても、引き続きこれまで同様、現地の研究機関・研究者と共同して、イェニセイ・クルグズ可汗国に関係する古代テュルク・ルーン文字銘文や関係するタムガや岩壁画について野外調査を実施する予定である。また本研究テーマに関して言えば、そうした岩壁画や銘文、タムガの分布や当時の関係城塞などの位置なども考慮しながら、クルグズ可汗国の支配領域についても分析を進め、当時のクルグズ族の移動経路や交易路の実態について関係資料を蒐集していきたい。
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Causes of Carryover |
ハカス共和国アバカン市のハカス言語・歴史・文学研究所との共同調査において、当初の調査プランに入れていた北部ハカスの一部の地区や、アバカン市郊外の岩山地帯へのアクセスが悪天候のために見合わせざるを得ない状況に追い込まれ、調査不可能となったため、未使用額が生じた。
今回の未使用額については、先の調査でアクセスできなかった地点での旅費や調査費、そして関連分野の研究書や現地語資料の蒐集などに使用する予定である。
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