2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03090
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小笠原 弘幸 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (40542626)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | トルコ共和国 / イスラム / 世俗化 / オスマン帝国 / 歴史認識 / 国民形成 / ナショナリズム / アタテュルク |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、申請書の計画通り、四半期に一度の定例研究会を継続して開催した。定例研究会では、連携研究者や共同研究者とともに、トルコ共和国の国民形成についての議論を深めることができた。研究会のテーマは、遺跡、国際政治あるいは教育と、国民形成を軸としつつも多岐にわたるものであった。 また、12月には九州史学会大会イスラム文明学部会の場を借りて、日本のトルコ共和国史研究者が一堂に会したシンポジウム「トルコ共和国の歴史と現在」を開催した。このシンポジウムでは、音楽・言語学・宗教教育・クルド人問題といった、トルコ共和国の建国以来の重要な諸テーマについて、最先端の研究報告がなされた。いずれも、本科研費のテーマである「国民意識の内面化」の問題と直接的に関連する報告であった。さらに特筆すべき点として、トルコ共和国史研究者ネットワーク構築の観点から、非常に大きな意義を持ったことが指摘できる。本シンポジウムは、研究者同士の情報交換や連絡が不十分で分断されがちな日本のトルコ共和国史研究において、こうした状況を改善する試みの第一歩としても位置付けられうるだろう。 論考としては、研究代表者がトルコ共和国初期のイスラーム史教育に関するものを発表した。本論文は、1930年代に使用された高校歴史教科書を分析し、ムハンマドやイスラーム史の評価を検証したものである。本論文によって、世俗化が強調されるトルコ共和国建国期においても、文化としてのイスラーム的な表象は過度には否定されていないことが明らかとなった。さらには、トルコ共和国こそが、ムハンマドが推し進めた社会改革の後継者であるとの主張すら確認できた。こうした分析結果は、親イスラーム勢力が力を増している現在のトルコの状況を理解するための一助となると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の大きな成果として、九州史学会イスラム文明学部会におけるシンポジウムの開催があげられる。これほどの質と量をもった企画は、我が国におけるトルコ共和国史研究として類例がなく、初年度としては申し分のないスタートであった。 その一方で、トルコの政治状況の混乱により、夏季に予定していた史料調査をキャンセルせざるを得なかった。とはいえ、総合的には「おおむね順調に進展している」と評価しうる。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度においては、まず7月下旬に開催される第13回トルコ社会経済史学会(於ソフィア(ブルガリア)。エントリー済み)で研究報告を行い、同時にトルコにて史料調査を行う。また、定例研究会も昨年度同様、四半期に一度開催し、研究者ネットワークの構築と情報交換に努める。同時に国際学術雑誌への投稿準備を進め、英語論文を投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
トルコ共和国の国内状況(2016年7月15日のクーデター未遂の発生)により、夏季におけるトルコ共和国での史料収集活動を取りやめたために、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度では、7月下旬にブルガリアのソフィアで開催される第13回オスマン社会経済史学会に報告者として参加し、隣国トルコにおいても史料収集を行う。この出張に、前年度の持ち越し分を当てる。
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