2016 Fiscal Year Research-status Report
成立期のドイツ緑の党における価値保守主義的潮流 日独比較市民社会史的視点から
Project/Area Number |
16K03105
|
Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中田 潤 茨城大学, 人文学部, 教授 (40332548)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 価値保守主義 / 新しい社会運動 / エコロジー / 緑の党 / ナチズム / 市民社会 / ドイツ / 協同主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,本研究における中心的な研究対象であるいわゆる「価値保守主義者(Wertkonservativen)」の思想体系を解明するための彼らの著作・講演原稿等の収集・分析を行った. 具体的に分析の遡上に載せた人物は,B. Springmann(エコ農業実践者:緑の党幹部),H. Gruhl(CDU連邦議会議員:後に緑の党に移籍),A. Haussleiter(AUD指導者:後に緑の党に移籍),C. Amery(文筆家),C. Beddermann(環境運動活動家:GLU党首) などである. 本年度の研究実績は,以下のようにまとめられる.「自然保護・人文主義・連帯に基づく共同体の維持」(E. Eppler)を原則とする価値保守主義という用語は,もっぱら1970 年代以降,新しい社会運動の台頭と前後する形で使用され始めた.しかしながら,生産力至上主義や市場原理主義的傾向を批判するその思想的内実は,19 世紀末以来の産業社会批判を軸とした,ナチズムを包含する言説との間に,明白な連続性を有していた.他方でその連続性は,1980年代に緑の党の内外から価値保守主義者に対して向けられた批判が主張するような,単純なナチズムとの親和性という次元には収まらず,実際には両者の間に複雑な関係が存在していた.こうした点については,例えばU. Linse,F. Uekoetter, 藤原辰史,小野清美らの研究も指摘しているところである.さらに彼らの思想が持つロマン主義的な傾向は,後に党内で激しい対立を引き起こす「エコ近代主義」との対比おいて,その「自然環境の持続性」重視の姿勢が鮮明であった. 現状ではこうした成果を研究論文としてまとめる準備を行っているところである.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本務校である茨城大学人文学部は,平成29年度より抜本的な学部の再編成を予定している.平成28年度はそれに向けた準備として,膨大な学内行政業務が発生してきた.研究代表者は,平成28年度学部教務委員長に任命され,こうした業務を中心的に担う立場に就くことになった.そのため残念ながら当該の研究課題について平成28年度は,十分なエフォートを割くことができなかった. 他方,年度途中に翌年度(平成29年度)から研究の対象地域であるドイツでの在外研究の実現が明らかになったため,研究遂行効率化の観点から,本年度予定していた海外調査を意図的に翌年度に回すことにした. 結果的に平成28年度に限って言えば,当初予定より研究は遅れ気味であるが,平成29年度は,当初予定よりも進捗が見込めるはずである.
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,28年度中の研究成果を研究論文の形にまとめる.それと平行して前項でも述べたように,文書館での調査を在外研究中という立場を最大限に利用して集中的に行う予定でいる.具体的には,価値保守主義的傾向を体現していた緑の党の前身組織の活動を分析する予定である.1970 年代に入ると,主として環境問題,女性解放,住宅問題に対する関心から多くの市民運動が成立し,またその一部は政党化を目指して積極的に活動していく.こうした組織の中でも,本研究の中心に位置する価値保守主義的な傾向を持ったものとして「緑の行動・未来(GAZ)」,「緑のリスト・環境保護(GLU)」,「独立ドイツ人行動共同体(AUD)」などを挙げることができるが,これらの組織は,膨大な量の出版物・パンフレット,ニューズレターなどを発行していた.ベルリンにあるハインリヒ・ベル財団文書館(Archiv Gruenes Gedaechtnis Heinrich Boell Stiftung)は,これらに関する膨大な史料を所蔵している.研究代表者は,上記の組織のシュレスヴィヒ=ホルシュタインおよびニーダーザクセン州における活動についてすでに予備調査を実施し,有用な史料の所在を確認している(例えばA-Gerald Hoefner: 12 GAZ, A-Wilhelm Knabe: 654 GLSH, ZS 441: Gruene Lieste Schleswig-Holstein (GLSH) Mitgliederrundbrief など).また同文書館は,成立期の党の指導的人物であったペトラ・ケリーが収集していた文書も大量に所蔵しており,これも上記の組織の活動を知る上で貴重な資料である(例えば,A-Petra Kelly: 2301 (SPV) Die Gruenen 1978-1979).
|
Causes of Carryover |
本務校である茨城大学人文学部は,平成29年度より抜本的な学部の再編成を予定している.平成28年度はそれに向けた準備として,膨大な学内行政業務が発生してきた.研究代表者は,平成28年度学部教務委員長に任命され,こうした業務を中心的に担う立場に就くことになった.そのため残念ながら当該の研究課題について平成28年度は,十分なエフォートを割くことができなかった. 他方,年度途中に翌年度(平成29年度)から研究の対象地域であるドイツでの在外研究の実現が明らかになったため,研究遂行効率化の観点から,本年度予定していた海外調査を意図的に翌年度に回すことにした.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
文書館での調査を在外研究中という立場を最大限に利用して集中的に行う予定でいる.具体的には,価値保守主義的傾向を体現していた緑の党の前身組織の活動を分析する予定である.1970 年代に入ると,主として環境問題,女性解放,住宅問題に対する関心から多くの市民運動が成立し,またその一部は政党化を目指して積極的に活動していく.こうした組織の中でも,本研究の中心に位置する価値保守主義的な傾向を持ったものとして「緑の行動・未来(GAZ)」,「緑のリスト・環境保護(GLU)」,「独立ドイツ人行動共同体(AUD)」などを挙げることができるが,これらの組織は,膨大な量の出版物・パンフレット,ニューズレターなどを発行していた.ベルリンにあるハインリヒ・ベル財団文書館は,これらに関する膨大な史料を所蔵している.
|