2018 Fiscal Year Research-status Report
成立期のドイツ緑の党における価値保守主義的潮流 日独比較市民社会史的視点から
Project/Area Number |
16K03105
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中田 潤 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (40332548)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 価値保守主義 / 新しい社会運動 / エコロジー / 緑の党 / ナチズム / 市民社会 / ドイツ / 共同主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的の一つは,緑の党と社会運動との連続性という視点から(前身組織を含めた)党の組織構造,人的ネットワーク,メンバーの社会構成,運動の思想的背景および活動戦略等を解明することにある.そこで2018年度は,緑の党の前身となった市民運動組織(Buergerinitiative)に焦点をあて,その活動について史料に基づいた再構成・分析を試みた.具体的にはニーダザーザクセン州を拠点に主として1970年代後半から(古いものは1960年代末にすでに活動を開始していた)原子力関連施設建設に反対してきたいくつかの市民運動組織をとりあげた.その結果,こうした組織は,1)問題(この場合原子力関連施設)によって直接影響を受ける住民によって運動が組織されたこと,2)そして原子力関連施設は例外なく農村部に建設が計画されたため,圧倒的に農村部住民によって構成されていたこと,そしてこうした地理的な条件に規定される形で,3)組織の多くは民主的な組織運営形態をとりつつも,思想的には穏健もしくは価値保守主義的な傾向を持っており,職業的には農民,そして公務員(とりわけ教員)層によって過剰代表される傾向があることが明らかになった. また分析対象とした市民運動組織は,近隣地域はもとより国外の原子力関連施設建設反対を活動目的とする他の市民運動組織と密接なネットワークを形成しており,人的・物的・資金的な面で頻繁に交流を行っていた.さらにこうした組織は,女性解放運動,平和運動,住宅問題解決に向けた運動といった活動目的を異にする市民運動組織とも密なネットワークを形成していた.こうした目標を異にする市民運動組織間の交流・協力関係は,その後人的な面において彼らと大きく重なることになる緑の党が組織を拡大していく上で大きな役割を果たすことになったことを解明した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は,昨年度から継続中であった1980年代後半以降における緑の党内の再編プロセスを分析した結果を「ドイツ緑の党の党内再編 : 原理派の影響力喪失とベルリンの壁崩壊の影響を中心に」としてまとめ,論文として出版した.これはすでに昨年度出版した「ドイツ緑の党の党内再編 : 左派フォーラムと出発派の動きを中心に」の続編にあたるものである.さらに両論文での主張をまとめる形で,5月に開催された日本西洋史学会第68回大会において個別報告を行った. また本年度は緑の党研究そのものよりも,むしろその前身の活動の解明に力点を置き,2017年度にベルリンにあるハインリヒ・ベル財団文書館,ハンブルク社会問題研究所,ニーダーザクセン州立中央文書館,ゴアレーベン文書館等で収集した史料の分析,ならびに夏期休業中を利用してニーダーザクセン州における市民運動において当時主導的な役割を果たしたM. Bregler, D. Schaarschmidt, R. Harmsなどに聞き取り調査を行った.結果として上記のような知見を得るに至り,その成果の一部を「新しい社会運動としての環境保護市民運動(Buergerinitiative) ニーダーザクセン州における原子力関連施設建設反対運動を事例に」として12月に明治学院大学で開催された「1970年代ヨーロッパにおける民主主義の「リベラル」化研究会」で報告を行うとともに同名の論文としてまとめ,出版した.
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Strategy for Future Research Activity |
緑の党はとりわけ対象となる時期について言えば,党中央の組織的・財政的な統制力が弱く,その結果として党地方組織の独自性が想像以上に強い組織であることが明らかになった.そのため,研究の力点を党中央よりも個別の地方組織の方にややシフトさせながら研究を進めている.こうした推進方策を今後も深化させていく予定である. 前述の論文が扱った1970年代後半から1980年初頭に市民運動が活発に展開していたまさにその時期にニーダーザクセン州ではこれと並行して,この市民運動組織が重要と考える,環境問題・女性問題・軍縮平和等を主たる論点とした政党結成の動きも進展していた.こうした政党結成に向けた動きは一方でGLU(Gruene Liste Umweltschutz)として結実していくことになるが,実際にはそれは単線的なものではなかった.GAZやAUDといった競合政党や新左翼系の組織の思惑や動向とも関連して,GLUの政党化の動きは極めて複雑な展開を見せる.そこで今後,これまで収集した史料ならびに聞き取り調査のデータを基に,ニーダーザクセン州におけるGLUの結成と緑の党への移行のプロセスを再構成していく予定である. さらにニーダーザクセン州は,こうした環境政党結成の動きという観点において時間的に見れば他の連邦州に先んじていた.それゆえに他の連邦州で同様の組織が結成される際に,それに対して一定程度の影響を及ぼす立場にあった.実際ヘッセン州,シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州において,こうした傾向が強く見られた.この点も踏まえ,今後分析対象をシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州・ヘッセン州,そしてさらなる研究の展開を視野に入れながら,ハンブルク州,バーデン・ヴュルテムベルク州での状況にも着手することを予定している.
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Causes of Carryover |
(理由) 2017年度に一年間のドイツでの在外研究が実現したことにより,現地での史料収集が予定以上に効率的に進めることができた.それゆえに,当初2回予定していた2018年度中の史料収集のための海外調査を1回のみ行うこととした.そのため未執行の予算が発生することになった. (使用計画) ニーダーザクセン州におけるGLUの結成と緑の党への移行のプロセスを再構成するために必要な史料が,ベルリンにあるハインリヒ・ベル財団文書館,ハンブルク社会問題研究所,ニーダーザクセン州立中央文書館,ゴアレーベン文書館等に所蔵されている.これらの文書館・図書館で史料収集を行うために,海外調査を行う予定である.
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