2019 Fiscal Year Research-status Report
成立期のドイツ緑の党における価値保守主義的潮流 日独比較市民社会史的視点から
Project/Area Number |
16K03105
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中田 潤 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (40332548)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 価値保守主義 / 新しい社会運動 / エコロジー / 緑の党 / ナチズム / 市民社会 / ドイツ / 協同主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は,緑の党の前身となった「緑のリスト・環境保護(GLU)」の成立の局面を市民運動組織(Buergerinitiative)との直接の連続性という視点から一次史料に基づいて実証的に解明した.その成果を論文「緑のリスト環境保護(Gruene Liste Umweltschutz)の成立 市民運動からエコロジー政党へ」としてまとめた. 本論文では,1977年から1980年まで西ドイツ・ニーダーザクセン州を中心に活動した環境政党である「緑のリスト・環境保護」(GLU)の成立過程が扱われる.この政党は環境保護を活動目的とする州内の幾つかの市民運動組織(BI)を母体として結成されたが,その道のりは平坦なものではなかった.GLUは,AUDに代表される右翼急進主義的な政治潮流から環境保護活動に流入していた勢力と競合・対立関係にあった一方で,その母体である市民運動組織からも批判的な視線を向けられていた.そこには市民運動組織が多くの場合,既成政党による政治的課題のフレーミングのあり方に対して不信感を募らせることによって成立していたという事情が大きな役割を果たしていた.彼らの環境保護「運動」が,まさに彼らの不信感の対象であった「制度化」,つまり政党化によって乗っ取られる危険を感じていたからであった. さらに議会外運動の退潮以降,ある種の政治的アパシー状態にあった新旧の左翼勢力は1970年代後半以降のこうした環境保護運動の盛り上がりの中に自らの活路を見出し,彼らに接近を試みるようになっていた.こうした左翼勢力との協調に党の拡大の可能性を見出す勢力がGLU内からも出現することにより,党内情勢は混迷していく.しかしながらこうした党内情勢とは裏腹にGLUはニーダーザクセン州議会選挙で大きな成功を収める.それは全国政党としての緑の党の成立に向けた大きな推進力となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
環境保護市民運動は,とりわけ彼らによる原子力関連施設建設反対運動に対して政府およびマスメディアが冷淡な態度をとり続けること,そして反対運動の一部がその抗議のプロセスにおいて暴力の使用を厭わない姿勢をとったことに起因する世論の離反によって,自らの抗議行動の社会への滲透力に限界を感じていた.そこで彼らが見出した新たな戦略が「投票箱において」原発推進勢力に挑戦することであった.それは西ドイツリベラル・デモクラシー制度の質的変化(深化)も結果的に引き起こすことになった.このプロセスを実証的に解明することが本研究の主要な課題であるが,現時点までに市民運動の展開のプロセス,政党化を開始するプロセス,そして結党後の最初の危機のプロセスに関する分析を終了しており,概ね順調に研究を進めることができていると評価できる. 2019年度前半について言えば,環境保護市民運動が政党化への舵を切り始めた時期に焦点を当てた論文「緑のリスト環境保護(Gruene Liste Umweltschutz)の成立 市民運動からエコロジー政党へ」の執筆作業に研究に割ける時間の大部分を費やした.さらにこの研究成果を日本西洋史学会にて報告する予定のため,その準備作業も進めた.年度の後半は,本研究課題において検討の中心となっているGLUが,党の方向性を巡る考え方の相違から党内対立を引き起こしていくプロセスを解明中である.これを扱った一次史料をハインリヒ・ベル財団文書館,ハンブルク社会問題研究所,ニーダーザクセン州立中央文書館,ゴアレーベン文書館等で収集し,分析の最中である.
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Strategy for Future Research Activity |
緑の党はとりわけ対象となる時期について言えば,党中央の組織的・財政的な統制力が弱く,その結果として党地方組織の独自性が想像以上に強い組織であることが明らかになった.そのため,研究を力点を党中央よりも個別の地方組織の方にややシフトさせながら研究を進めている.こうした推進方策を今後も深化させていく予定である. より具体的には,引き続きニーダーザクセン州に焦点を定めながら,環境保護勢力の結集に向けた動きについて分析していく予定である.ニーダーザクセン州において環境保護を目標に掲げる政治勢力としてGLU, AUD, GAZなどが存在していた.彼らは互いに競合関係にあったが,1979年に初めて実施されることになったヨーロッパ議会選挙を機会に,共同戦線を張る議論が持ち上がることになった.作成された共同の選挙リストは,本来ヨーロッパ議会選挙のみに向けた一時的なものになるはずであったが,その後控えていた連邦議会選挙に向けてこのリストを全国政党の土台とすることを目指す動きが起こる.これは結果的に1980年の緑の党の設立へと繋がっていくわけであるが,今後はヨーロッパ議会選挙に向けた選挙連合形成から緑の党の成立のプロセスを上記の文書館等で収集した一次史料に基づきながら再構成していく予定である. さらにニーダーザクセン州は,こうした環境政党結成の動きという観点において時間的に見れば他の連邦州に先んじていた.それゆえに他の連邦州で同様の組織が結成される際に,それに対して一定程度の影響を及ぼす立場にあった.実際ヘッセン州,シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州において,こうした傾向が強く見られた.この点も踏まえ,今後分析対象をシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州・ヘッセン州,そしてさらなる研究の展開を視野に入れながら,ハンブルク州,バーデン・ヴュルテムベルク州での状況にも着手する予定である.
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Causes of Carryover |
(理由) 夏期休業中の史料収集では予想を下回る成果しかあげることができなかった.そうした状況を受けて,年度末の時期にもう一度ドイツでの史料調査を計画していたが,コロナ関連の諸事情のために実現せず,2020年度に調査を延期することにした.そのため予算の執行を次年度に繰り越すことにした. (使用計画) ニーダーザクセン州におけるGLUの結成と緑の党への移行のプロセスを再構成するために必要な史料が,ベルリンにあるハインリヒ・ベル財団文書館,ハンブルク社会問題研究所,ニーダーザクセン州立中央文書館,ゴアレーベン文書館等に所蔵されている.これらの文書館・図書館で史料収集を行うために,海外調査を行う予定である.
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