2020 Fiscal Year Research-status Report
成立期のドイツ緑の党における価値保守主義的潮流 日独比較市民社会史的視点から
Project/Area Number |
16K03105
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中田 潤 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (40332548)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 価値保守主義 / 新しい社会運動 / エコロジー / 緑の党 / 左派オルタナティブ / 市民社会 / ドイツ / 協同主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は,緑の党の前身となった「緑のリスト・環境保護(GLU)」の成立後の発展の局面について一次史料に基づき実証的に解明した.その成果を論文「『緑のリスト・環境保護』内の路線対立 抗議政党から世界観政党へ」としてまとめた. 本論文ではニーダーザクセン州ならびにヘッセン州に成立していた環境政党である「緑のリスト・環境保護」 GLUの党内状況について,1978年初頭から初夏の時期に焦点をあてつつ,かつ一次史料に基づき再構成を行った. 1978年6月に行われた州議会選挙においてGLUは議会への進出こそ実現しなかったものの,泡沫政党には留まらない存在であるとを示した.またその得票率に比較した時,不釣り合いなまでに大きいメディアないし既成政党の側の注目を引き起こしていた.それは当時のドイツ社会がこの緑の運動に大きな可能性を見出していたことの反映でもあった. この時期のGLUの展開において特筆すべき点は,左派オルタナティブ勢力の党内への流入であった.彼らの流入は,緑の運動に二つの大きな変化をもたらすことになった.その第一は,それまでの運動の担い手の中から,運動の支持基盤を拡大することを目的として左派オルタナティブ勢力との積極的な協働を推し進める勢力が成立したことであった.第二の変化は,こうした勢力の出現への反動と理解できるものであった.この新たに成立した勢力は「エコロジー」というテーマに活動の焦点化を求め,社会政策面において関心の強かった左派オルタナティブ勢力と党内で対立姿勢を強め,場合によっては離党・新党の結成も辞さないという立場をとっていた.後者の代表的な勢力が,ヘルベルト・グルールであり,また彼によって率いられた「緑の行動・未来」(GAZ)であった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
環境保護市民運動は,とりわけ彼らによる原子力関連施設建設反対運動に対して政府およびマスメディアが冷淡な態度をとり続けること,そして反対運動の一部がその抗議のプロセスにおいて暴力の使用を厭わない姿勢をとったことに起因する世論の離反によって,自らの抗議行動の社会への滲透力に限界を感じていた.そこで彼らが見出した新たな戦略が「投票箱において」原発推進勢力に挑戦することであった.それは西ドイツリベラル・デモクラシー制度の質的変化(深化)も結果的に引き起こすことになった.このプロセスを実証的に解明することが本研究の主要な課題であるが,本年度までおいて市民運動の展開のプロセス,政党化を開始するプロセス,そして結党後の最初の危機のプロセスに関する分析を終了しており,全体として見た時,概ね順調に研究を進めることができていると評価できる. 2020年度について言えば,GLUが組織的に発展し,またそれによって党内路線対立が顕在化し始めた時期に焦点を当てた論文「『緑のリスト・環境保護』内の路線対立 抗議政党から世界観政党へ」の執筆作業に研究に割ける時間の大部分を費やした. ただしさらなる研究を進展させるための資料収集活動を本年度は全く実施することができず,研究の進捗について若干遅れが生じている.
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Strategy for Future Research Activity |
緑の党はとりわけ対象となる時期について言えば,党中央の組織的・財政的な統制力が弱く,その結果として党地方組織の独自性が想像以上に強い組織であることが明らかになった.そのため,研究の力点を党中央よりも個別の地方組織の方にややシフトさせながら研究を進めている.こうした推進方策を今後も深化させていく予定である. より具体的には,引き続きニーダーザクセン州に焦点を定めながら,環境保護勢力の結集に向けた動きについて分析していく予定である.ニーダーザクセン州において環境保護を目標に掲げる政治勢力としてGLU, AUD, GAZなどが存在していた.彼らは互いに競合関係にあったが,1979年に初めて実施されることになったヨーロッパ議会選挙を機会に,共同戦線を張る議論が持ち上がることになった.作成された共同の選挙リストは,本来ヨーロッパ議会選挙のみに向けた一時的なものになるはずであったが,その後控えていた連邦議会選挙に向けてこのリストを全国政党の土台とすることを目指す動きが起こる.これは結果的に1980年の緑の党の設立へと繋がっていくわけであるが,今後はヨーロッパ議会選挙に向けた選挙連合形成から緑の党の成立のプロセスを上記の文書館等で収集した一次史料に基づきながら再構成していく予定である. さらにニーダーザクセン州は,こうした環境政党結成の動きという観点において時間的に見れば他の連邦州に先んじていた.それゆえに他の連邦州で同様の組織が結成される際に,それに対して一定程度の影響を及ぼす立場にあった.実際ヘッセン州,シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州において,こうした傾向が強く見られた.この点も踏まえ,今後分析対象をシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州・ヘッセン州,そしてさらなる研究の展開を視野に入れながら,ハンブルク州,バーデン・ヴュルテムベルク州での状況にも着手する予定である.
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Causes of Carryover |
(理由): 年度内にドイツでの史料調査を計画していたが,コロナ関連の諸事情のために実施に移すことができず,2021年度に調査を持ち越さざるを得なかった.そのため予算の執行を次年度に繰り越すことにした. (使用計画): ニーダーザクセン州におけるGLUの結成と緑の党への移行のプロセスを再構成するために必要な史料が,ベルリンにあるハインリヒ・ベル財団文書館,ハンブルク社会問題研究所,ニーダーザクセン州立中央文書館,ゴアレーベン文書館等に所蔵されている.これらの文書館・図書館で史料収集を行うために,海外調査を行う予定である.
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