2017 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ市民ナショナリズムの変容―1970年代における社会再編の歴史学的分析
Project/Area Number |
16K03113
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中野 耕太郎 大阪大学, 文学研究科, 教授 (00264789)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | アメリカ史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は1970年代を中心に現代アメリカの市民ナショナリズムの歴史的変容を分析するものである。研究2年目の本年度は平成29年8月から平成30年2月の期間、アメリカ合衆国のノースウェスタン大学バフェット研究所に客員研究員として滞在し、アメリカでの第一次史料調査や現地研究者との交流等にもとづく情報収集を中心に事業を推進した。 まず第一に、1970年代に顕著な女性や人種マイノリティの指導的地位への上昇と当時の市民社会の政治秩序との関係を問う観点から研究を進めた。具体的には、ノースウェスタン大学が所蔵するシカゴ市政関連の学術報告書、および、Chicago Tribune紙、Chicago Sun-Times紙のバックナンバーを綿密に調査し、70年代にあらわれる女性初のシカゴ市長ジェーン・バーンとこれに続く、初の黒人市長ハロルド・ワシントンの政治キャンペーンを分析した。また、両市長の政策に関しては、シカゴ市のハロルド・ワシントン公立図書館センターで、当時同市が刊行した報告書類を閲覧するとともに、同図書館収蔵のH.ワシントン個人文書を読み解き、その実態を検証した。 第二に、1970年代にあらわれる軍事的市民権の変容に関連して、女性市民による軍事奉仕の拡大がもたらす影響を検討した。具体的にアメリカ政府はこの時期、①徴兵の一時停止と、②徴兵「登録」における女性除外の廃止を行っているが、主要な女性団体はこれにどう対応していたのか、ハーヴァード大学シュレジンジャー図書館所蔵の全米女性機構(NOW)文書を調査し考察を深めた。この作業を通して、この問題が軍隊内部での女性兵士に対する処遇の不平等と関わっていることが次第に明らかになってきた。これに加えてアメリカ在郷軍人会の機関誌の収集・分析も行った。70年代の軍事=社会の変化に対する退役軍人一般の意識を検証する目的から進めた検討であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年計画の本研究は、各年次に対応して3つの段階を経て完成することを目指している。すなわち、1960年代までの政治的遺産であるアメリカの福祉国家構想と1970年代に台頭する新自由主義の社会観の相克を考察する第1段階、同時期に明らかになった軍事奉仕のあり方の変化と市民ナショナリズムの展開を検討する第2段階、そして、こうした現代的なアメリカ市民ナショナリズムの国際的な側面を分析する第3段階である。昨年度行った反納税運動の調査やアメリカ例外主義の思想史的考察に加え、今年度は、女性、人種マイノリティの政治指導層への進出や、70年代に可視化する徴兵(市民の軍事的な義務)と女性の権利の問題に関してアメリカ現地での史料調査を進めることができた。研究計画が概ね順調に進展していると自己評価する所以である。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究3年目となる平成30年度においては、現代アメリカ市民ナショナリズムの変容と同時代のコスモポリタンな社会運動や国際主義的な諸政策との関係を主として検討する。全米屈指の市民権運動団体である全米黒人地位向上協会(NAACP)や全米女性機構(NOW)の反植民地主義や国際的人権運動とのつながりについて検証するとともに、最近の研究で明らかになってきた戦後アメリカの海外援助と国内の反貧困・社会政策との相互関係にも注目して研究を進める。さらに、こうした論点が1970年代の福祉国家衰退の文脈でどのような意味を持ちえたのかについても再検討する予定である。なお、これらの調査分析のために、夏季におよそ2週間の予定でアメリカ現地で史料調査を実施する。また、この第3年次は、研究計画の最終年となるので、以上3ヵ年にわたる70年代市民ナショナリズム研究を総合し、ここに明らかになった事実をより大きなアメリカ史の文脈に位置付ける作業を行う予定である。
|
Research Products
(3 results)
-
-
-
[Book] アメリカ文化事典2018
Author(s)
アメリカ学会編(共著)
Total Pages
917
Publisher
丸善出版
ISBN
978-4-621-30214-9C0522