2017 Fiscal Year Research-status Report
デンマーク領西インド諸島における自由黒人の果たした歴史的役割について
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16K03129
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
佐保 吉一 東海大学, 文学部, 教授 (00265109)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | デンマーク領西インド / 黒人奴隷 / 自由黒人 / 奴隷法 / 奴隷制 / フリーカラード / フリーガッツ(自由黒人居住地域) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究2年目に当たる平成29年度における研究の中心は、旧デンマーク領西インド諸島(現アメリカ領ヴァージン諸島USVI)における現地調査を実施することと、奴隷解放(1848年)以前の自由黒人の状況をセンサスや法律面から考察することであった。諸般の事情(特に現地が昨年9月にハリケーンの大被害を受けたこと)から、現地調査の実施は年度末3月初旬となった。現地の公文書館、St.Thomas の公立図書館内のvon Scholtenコレクションに所蔵されている史・資料を閲覧し、必要に応じて文献資料を複写した。また、例えばウィム博物館等主要な博物館、記念碑、関係遺跡を訪問し、自由黒人に関する説明記述をデジタルカメラに記録した。 さらに、郷土史家のDavid W. Knight氏, 郷土史家でUSVI議会議員であるMyron Jackson氏、Frandelle Gerard氏から資料提供を受け、最新の研究状況について意見交換を行なった。これらから判明したことは、自由黒人も島によってその特徴が大きく異なること、そして統治側による自由黒人の管理が強弱の差はあれ、行われたということであった。 またSt. Croix島では、自由黒人が居住したFree Gutsという地区にアトリエを持つ芸術家La Vaughn Belle氏との面識を得、同地区の歴史や彼女が現在所有する家屋の歴史(歴代所有者)に関する情報提供を受けた。これをもとに家屋の所有者を軸に据えて自由黒人の歴史をみるという全く新しい視点を獲得出来た。このことは大きな収穫であり、自由黒人の所有権は、例えば英国領ではみられないデンマーク領の特徴であり、今後この視点でみていけば、自由黒人あるいは元自由黒人の社会階層移動が確認出来るのではないかという見通しが得られた。 今後は年度末に得られた史資料を用いて詳細な分析を進めて行きたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本務校における2018年4月設置の新学部準備のため業務が予想以上に増加した上に、研究対象の地域(現アメリカ領ヴァージン諸島)は昨年8月末から9月初旬にかけて未曾有のハリケーン被害を受けた。その為地域の復興が最優先され、調査・研究の為のホテル滞在も後回しであった。それゆえ予定していた訪問がようやく3月初旬になって実現した。現地は復興途上であったため、資料閲覧は所蔵図書館の修理・所蔵資料の修復のため予想以上に限られたものとなった。また、研究の中心が現地訪問で史資料を得て、それらを整理することであったため、考察にはまだもう少し時間を要する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年4月に本務校での役職に新しく就いたため、慣れるまで思うように時間が取れない危惧はあるが、夏前には落ち着くことが予想されるため、現時点では当初の予定通り研究を進めていく所存である。 平成30年度における研究の中心はアメリカ合衆国ワシントンD.C.での文献調査と奴隷制廃止(1848年)後の社会における自由黒人の置かれた状況の考察である。 まず、8月の盆の一斉休暇中、または翌年3月初旬に約1週間の日程で、ワシントンD.C.及びメリーランド州にある米国国立公文書館(NARA)における文献調査を実施する。ここにはRecord Group 55という旧デンマーク領西インドの史料が整理された形で存在している。今回は特に植民地政府布告や新聞(St.Thomas Tidende, St. Croix Avis)から当時の自由黒人に関する部分を重点的に調査し、必要部分を複写するかデジタルカメラで撮影する。量が多い場合は資料撮影のためのアルバイトを研究補助という形で手配する予定である。さらに関連マイクロフィルムをDVD化する作業も依頼する。 次にこれまでの研究では空白部分であった奴隷解放後(1848-1917年)の自由黒人の状況を、現地新聞(St. Croix Avis他)や訪問者の手記、裁判記録、教会記録等を用いて考察する。特に解放直後に関して、元自由黒人と元黒人奴隷の一般的境遇の差がいかなるものであったのかを明らかにしたい。そしてその差が次第に拡大するのか縮小するのかも考究する。さらにAncestry.comの情報を用いて、個人レベルのケーススタディ(追跡調査)を実施する。そして現アメリカ領ヴァージン諸島での遺伝系図学研究やDNA分析の成果を利用して、自由黒人が辿った歴史を再構築する。
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Research Products
(1 results)