2016 Fiscal Year Research-status Report
現代イギリスの歴史認識と「植民地支配責任」の史的研究
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16K03138
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
前川 一郎 創価大学, 国際教養学部, 教授 (10401431)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 歴史認識 / 植民地主義 / イギリス史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、イギリス政府が今日まで、植民地支配がもたらした苦痛や被害に対する謝罪や補償(「植民地支配責任」)の求めに応じようとしなかった背景には、かつて「文明化の使命」といわれた支配理念(近代西欧的理念)は決して否定しない、この国特有の歴史認識があったとの認識に立ち、その論理と成立過程を明らかにし、イギリス現代史の特徴を考察することにある。 以上の研究目的のもとで、平成28年度は、歴史教科書と歴史認識問題の分野を中心に先行研究を整理した。特に、戦争責任と植民地責任の両概念の異同と共通点を説明可能な議論として提示できるように努めた。その過程で、欧米の研究状況と日本のそれとの大きな違いを確認できた。すなわち、歴史認識問題というくくりでわが国で一般的に想定できる問題系は、いわゆる戦争責任論および戦後責任論である。わが国では、いわゆる安倍談話に見られるように、昨今の政府系および「有識者会議」系の議論を通して、「1930年代に日本が国際主義に背を向けて道を誤った」という議論が提示されるが、そうした議論には、それまでの植民地支配の歴史を再検討することの意識が低いということを意味してはいないだろうか。また、欧米では昨今、戦争に先立つ植民地支配の残虐行為(colonial atricities)に対する補償・謝罪の政治(politics of reparations and apologies)が活発化しているが、そこで議論されるのはあくまでも残虐行為(複数形のatricities)であり、植民地支配そのものが支配者側に与えた問題(単数形のatricity)やその歴史的意義については相変わらず不問に付される状況が見られる。こうした検討をもとに、2017年1月『歴史書通信』に『反・「正しい歴史認識」雑感』を寄稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで、研究はおおむね順調に進展している。先行研究の整理も進み、概念的検討及び事例研究に注力できている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、さらに「植民地責任」概念の整理と、歴史認識を論じる際の方法論の確立を試みる。とりわけ、「責任」概念の二類型(応答責任=歴史学的意義の探求と負担責任=法的負担の追求)の関係を理論化し、同時に歴史的事例をもとに分析したい。
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Causes of Carryover |
海外出張における現地交通費支出等において、概算払いと実費の差が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度も予定している海外出張において使用予定。
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Remarks |
研究成果の一部は、「イギリス帝国の歴史~現代世界を理解するヒントを探る」と題して行った市民講座(朝日カルチャーセンター・新宿教室、全10回、2016年4月~12月)にて発表した。
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