2017 Fiscal Year Research-status Report
現代アメリカ合衆国における国史編纂の動態の検討:米国先住民と国立公園局の歴史解釈
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16K03141
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
川浦 佐知子 南山大学, 人文学部, 教授 (30329742)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 歴史解釈 / 米国先住民 / 国立公園局 / シャイアン / 土地保全 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代アメリカ合衆国における国史編纂の実際を、国土管理によって国家成立の歴史を編纂する連邦内務省国立公園局と、合衆国成立以前から大陸に先住してきた先住民部族との対立・折衝・協議の歴史を通して検討するものである。本研究は、1)国立公園局の史観の検討、2)先住民部族と国立公園局の折衝の歴史の検討、3)部族関連地所が関わる現在進行形の事案についての検討、という3つの焦点をもつ。 平成29年度は1)について、1916年国立公園局創設の経緯を把握するとともに、1906年遺跡保存法、1935年史跡設置法、1966年国家歴史保全法、1992年国家歴史保全法改正を検討することで、国立公園局がどのように国土管理に関する権限を拡大してきたのかについて明らかにした。併せて、国立公園局における「歴史部門」の台頭と、国定歴史地所選別に用いられる「歴史主題の基本構成」が抱える課題について検討した。 2)については、ワシントンDCでの調査において、国立公園局部族歴史保存プログラム担当者及び、先住民対応専門家へのインタビューを実施することで、先住民部族と国立公園局の交渉、折衝の実際の在り様について情報を得た。また、先住民遺骨及び埋葬品等の返還に関わる、国立アメリカインディアン博物館と先住民との交渉の実際について、国立アメリカインディアン博物館文化資源センターNAGPRA担当者へのインタビューを実施することで情報を得た。 3)については、モンタナ州ノーザン・シャイアン部族保留地での歴史的地所及び伝統行事のフィールド調査、部族伝統保持者及び教育関係者へのインタビュー調査を実施することで、部族の記憶継承を支える土地の現状と語りの形態について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の焦点となる1)国立公園局の史観の検討、2)先住民部族と国立公園局の折衝の歴史の検討、3)部族関連地所が関わる現在進行形の事案についての検討について、おおむね順調に進行している。 1)については、国立公園局が管理地域拡大を図る過程において「考古学」のみならず、「歴史学」を基調とするようになった経緯が明らかとなった。併せて、国立公園局が国家歴史遺産の保全の基とする歴史主題の基本構成が、人間の経験の多様性を反映させるべく、改訂されていることが明らかとなった。 2)については、国立公園局歴史保存プログラム担当者及び、先住民対応専門家へのインタビューによって、部族歴史保全委員会システム、及び部族政府と国立公園局、州歴史保全委員との調整を図る部族歴史保全委員会委員の役割の重要性が明らかとなった。国立アメリカインディアン博物館文化資源センターNAGPRA担当者へのインタビューにおいては、先住民側からの返還要請に対して取られる具体的な手続きと手順、交渉において重視される協働の精神の実践、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ等における返還手続きとの違いについて情報を得ることができた。 3)については、20世紀前半、ノーザン・シャイアン・インディアン保留地設立当時の様子について、部族の伝統的社会結社メンバーへのインタビューを実施した。保留地内には国家的歴史地所の認定はないものの、部族構成員が記憶を想起しつつ、生活を営む場としての保留地の重要性が明らかとなった。併せて、サンドクリーク虐殺地国定歴史地区において、毎年、記念行事を取りまとめるコーディネーターに聞き取り調査を行った。聞き取り調査からは、新たに創出された記念行事によって、若い世代への共同体の記憶の継承されている様が明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、1)国立公園局の史観の検討を引き続き行うとともに、国家歴史保存法106条による歴史的環境保護の成功例に焦点を当てることで、歴史保全が土地保全に結びついているケースを検討する。 これと併せて、3)部族関連地所が関わる現在進行形の事案であるサンドクリーク虐殺地国定歴史地区の歴史解釈、及びタンリバー鉄道敷設計画に反対する先住民側の論点をまとめ、その言説を分析する。歴史保全が共同体の記憶継承・土地保全に結びついていないケースとして上記2件を検討し、1)と比較したうえで考察する。 2)先住民部族と国立公園局の折衝の検討を、部族歴史保存委員会に焦点を当てての行い、国立公園局の歴史保全と先住民部族共同体の記憶継承・土地保全の交差について考察を行い、研究全体の総括を行う。 上記検討のため、モンタナ州ノーザン・シャイアン・インディアン保留地を基点とした現地調査、及びコロラド州デンバーでの史料調査、聞き取り調査を行う。
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Causes of Carryover |
(理由) 平成28年度に計画したコロラド州デンバーでの調査が学務多忙により中止となったため、平成28年度予算が平成29年度へ持ち越された。平成29年度は計画通り、モンタナ州ノーザン・シャイアン・インディアン保留地での調査、及びワシントンDCでの調査を行ったが、平成29年度内にデンバーでの調査を行う時間的な余裕はなかった。そのため、持ち越し予算が生じた。 (使用計画) 平成30年度、当初からの計画にあるモンタナ州ノーザン・シャイアン・インディアン保留地での調査に加え、コロラド州デンバーでの史料調査、国立公園局インターマウンテン地域事務局での聞き取り調査を行う予定である。
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