2016 Fiscal Year Research-status Report
スウェーデンから見た三十年戦争史と財政軍事国家の資源・資金に関する研究
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16K03148
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Research Institution | Asahikawa National College of Technology |
Principal Investigator |
根本 聡 旭川工業高等専門学校, 一般人文科, 准教授 (80342442)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 近世スウェーデン / 対外政治 / グスタヴ・アドルフ / アクセル・オクセンシェーナ / クリスチャン四世 / ヨハン・シュッテ / 外交史 / バルト海支配 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、近世スウェーデンの対外政治について、対ロシア政治と対デンマーク政治の詳細を解明することを主要な課題とした。このため、スウェーデン軍事国家の前提条件である、グスタヴ二世アドルフの父王カール九世の行なった対外政治にまで遡及し、後継王グスタヴ・アドルフがどのようにそれを引き継ぎ、解決していったのかの検討を進めた。これをうけて、同王の外交および軍事政策について以下の五点に注目して考察した。(1)対ロシア問題については、グスタヴ・アドルフ治世前半期の対ツァーリ外交、特に1617年のストルボヴァの和議以降の外交政策を考察した。(2)対デンマーク問題については、カルマル戦争とその帰結のクネーリードの和議を分析し、対デンマーク外交の問題点を抽出した。(3)同戦争の結果、スウェーデンがデンマークに負ったエルヴスボリの賠償金の返済をめぐって、スウェーデンがいかにして当該返済の資金繰りを行なったかという、スウェーデン近世史上の大問題について、グスタヴ・アドルフの対フランス、対イングランド、対ネーデルラントとの交渉を丹念に追いながら、オランダ議会との外交および資金繰りの実態を調べた。(4)以上の研究から、スウェーデン王グスタヴ・アドルフおよびデンマーク王クリスチャン四世の政治的立場や外交交渉術と、両国の対ポーランド問題や対北ドイツ問題への対応をも考慮に入れながら、両王の政治目標であるバルト海支配の問題に対する利害の異同について考察を深めた。(5)その際、特にスウェーデン外交の主役である王国参議ヨハン・シュッテと王国宰相アクセル・オクセンシェーナの行動に着目し、考察を深めている。最後に、当初の研究計画の予想以上に、対北ドイツ政治、特にブランデンブルク選帝侯家との婚姻政策による同盟問題が重要な鍵を握っていることが判明したため、これに関する新しい外交史研究の動向を吸収しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
遅延の理由は、主に次の五点があげられる。第一に、文献・史料の入手の困難性、である。特に『王国宰相アクセル・オクセンシェーナ文書・書簡集』の購入が、いまや非常に難しい。第二に、軍事財政史に関するスウェーデン学界の第一人者であるヤン・リンデグレンの研究があまりにも高度かつ浩瀚であるため、それを批判・検討しながら、当時の財政状態を再構成することは困難を極める作業である点である。第三に、これまで過去百年余りの、すなわち二十世紀の近世スウェーデン史研究が、十七世紀の経済政策の研究を取り上げてこなかったことに由来する問題である。したがって、グスタヴ・アドルフ治世期の経済政策の意義を問うこと自体が、斬新な観点であるため、膨大な研究を整理しても、容易には国家財政の問題に結びつかないという難点がある。第四に、第三の点と関連して、とりわけ第二次大戦後、外交史が忌避されてきたという点がある。したがって、スウェーデンの対外政治を、経済問題や商業政策と結びつける研究は、ほとんどないといっても過言ではない。そのため、当方がいわばパイオニアとしての観点をもっているわけで、ここから必然的に研究の前途にはいくつもの壁が立ちはだかることになる。第五に、本研究課題の性質上、研究対象国が主なものだけでも六カ国、すなわちロシア、デンマーク、ポーランド、ブランデンブルク、オランダ、イングランドに及び、しかも神聖ローマ帝国全体も射程に入れなければならないわけで、さらにその神聖ローマ帝国内に多数の公国や都市が絡んでくるため、本研究が、スウェーデン史の観点からスウェーデン語文献や史料をもとにした研究であるとはいえども、デンマーク語や英語やドイツ語の文献にも目配りしなければならないという点がある。さらに付言するならば、当時の史料の解読が、ラテン語も加わるため、きわめて難解な作業であるという点があげられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、基本的には、予定通りの方向で進めることにしたい。すなわち、第一に、対ロシア問題と対デンマーク問題を解明し、第二に、エルヴスボリの賠償金問題と、それに関連するオランダからの借金および銅山開発ならびに銅貿易の研究を行ない、第三に王国宰相アクセル・オクセンシェーナの対外政治に関する立案や意図を史料にもとづき解明する、という方向である。そのうえで、スウェーデンがドイツ三十年戦争に参戦した原因を解明するという課題と、スウェーデンが戦争資金調達の問題と武器製造の問題を克服して、三十年戦争に勝利を収めることができたのか、という問題の分析に入っていくことにしたい。ただし、その際に、いま新たな課題として重要になってきている問題として、グスタヴ・アドルフ治世期における対ブランデンブルク外交が浮上してきている。したがって、一方で、近世ヨーロッパ史学界において、近年、新たな外交史研究が陸続と登場しているという状況に鑑みながら、また他方で、十七世紀の重商主義の意義を再考するヨーロッパ経済史学界の新たな動向に対しても十分に視野に入れながら、これら二つの新潮流を積極的に取り入れることによって、本研究を充実させるという方策をとることにする。
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