2018 Fiscal Year Research-status Report
トライボロジーとヒューリスティック・アプローチによる石器使用痕分析の高精度化
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16K03149
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鹿又 喜隆 東北大学, 文学研究科, 准教授 (60343026)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 石器使用痕 / 曽畑式 / レアルアルト遺跡 / 便宜的石器 / 杉久保石器群 |
Outline of Annual Research Achievements |
石器使用痕分析の実験研究と応用研究を継続的に実施し、成果を発表してきた。具体的には、九州と沖縄の縄文時代前期に属する4箇所の遺跡を分析し、『日本考古学』第45号に公表した。当地域・当時代の分析は殆どみられないため、貴重な成果である。ここではチャートや黒曜石を対象とする分析であった。 また、エクアドルのレアルアルト遺跡での石器使用痕分析の成果を『Bulletin of the Tohoku University Museum』No.18に掲載した。簡易な製作技術をもつ剥片石器であるが、その使用度が土器出現後に高まり、被加工物も多様化することを確認した。簡略な製作技術をもつ石器は便宜的とみなされる傾向にあるが、実際には十分に多様な作業に対応できていることを確認し、石器使用痕分析に基づく検討の必要性を示した。 後期旧石器時代の杉久保石器群に関しては、『東北文化資料叢書第12集 最上川流域の後期旧石器文化の研究4 白山E・白山B遺跡』を編集し、その中で2遺跡の石器使用痕を確認し、特に神山型彫刻刀形石器の機能を明らかにした。 また、東北日本の旧石器時代における石器使用痕研究の総括を『東北日本の旧石器文化』にて執筆した。実験方法に関しては、『実験考古学ワークショップ』の中でフューリスティック・アプローチの重要性を示した。同書には、エクアドルと日本の先史文化比較について発表した国際学会の発表要旨も掲載した。 分析結果を公表していないが、山形県羽黒神社西遺跡(縄文中期)の打製石斧の分析をおこなった。また、薬莱山No.8遺跡(後期旧石器時代前半)の接合資料に含まれる石器の使用痕分析が進んでいる。海外の資料では、エクアドルのアタフアルパ遺跡の最下層の分析を実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験研究と遺物分析を並行して進めているが、実験研究の蓄積には上限がなく、本研究期間の最後に、総括して公表する計画であるため、未公表のままである。2018年度は、マンモス牙と竹を対象にした黒曜石・頁岩製石器による実験が多く蓄積された。 一方、遺物研究は一定の蓄積の基に成果を発信しているため、本年は九州・沖縄の縄文前期(曽畑式)の遺跡4箇所と、エクアドルのレアルアルト遺跡(先土器から前期土器期)、後期旧石器時代の山形県白山E・白山B遺跡の成果を公表できた。東北日本の後期旧石器時代に関しては、総括的論考を発表できた。本研究課題のフューリスティック・アプローチの重要性や理論的背景についても、幾つかの論考の中で具体的に示すことができた。 現在分析中または分析結果を未公表の資料として、国内では、山形県羽黒神社西遺跡と宮城県薬莱山No.8遺跡がある。前者は、2019年度末刊行予定の発掘調査報告書の中で報告する。分析対象が石箆に類似した打製石斧であり、着柄法や操作法を踏まえた実験研究が求められる。既に複製石器を製作しており、2019年度に実施する。薬莱山No.8遺跡では、経年変化・埋没後変化の影響が強く、微弱な使用痕を判定できない状態である。しかしながら、下総型石刃再生技法の接合資料に含まれる個々の石器の機能の解明は重要であり、報告に向けて多角的に検討している。埋没後の表面変化による使用痕の変化と判定への影響を検討でき、分析の高精度化のために取り組みたい。海外資料では、エクアドル・アタフアルパ遺跡の分析を継続するとともに、レアルアルト遺跡の先土器文化層の資料分析を追加したい。 本研究で調査された宮城県野川遺跡については、基礎整理が進み、一部石器の使用痕分析を試行した。ここでは、縄文化に伴う石器機能の変化を見出せる可能性があり、石器使用実験を並行して、最終的な結論を導く計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度が最終年度にあたるため、特に実験研究の総括をおこないたい。今年度中に、牙、竹を対象とした実験、打製石斧を用いた実験を追加し、総括する。また、石器使用痕分析の客観化を目指して、ポリッシュを測定し、タイプ分類の妥当性を検討すると共に、分類基準の客観化について検討する。3Dレーザー顕微鏡を活用した計測データの蓄積を重視したい。 遺物研究では、分析済みまたは分析中の資料について、成果をまとめ、順次公表したい。羽黒神社西遺跡の分析結果に対しては、実験研究が必要であり、打製石斧の着柄・使用実験を実施し、一緒に報告する。その中で、フューリスティック・アプローチの実践法について、具体的に提示したい。薬莱山No.8遺跡に関しては、埋没後表面変化の検討と正確な理解が求められる。ここでは、石器使用痕分析の結果のみを報告するだけでは意味が無く、追加の分析と別な視点からの客観的な評価が求められる。野川遺跡に関しては、基礎分析を進め、縄文化に関連する植物利用(イネ科植物、木、竹など)に関わる使用実験を並行し、遺物の使用痕分析結果を評価していきたい。エクアドルの遺跡群に関しては、土器出現前後における石器の機能の変化が理解できてきたので、分析蓄積の乏しい先土器文化層の資料を中心に、追加分析を実施する予定である。 新たな分析資料として、宮城県谷地遺跡(縄文中期)があり、当該期の石器使用の特徴を明らかにしたい。2019年度末の報告書刊行に合わせて分析結果をまとめる。 体系的な実験研究組織の構築のため、実験考古学ワークショップを計画している。学生を含めた若手研究者が参加し、様々な課題に関して痕跡学的観点から検討することを指導し、研究分野の裾野を広げる計画である。
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[Book] 東北日本の旧石器文化2018
Author(s)
会田容弘・小野章太郎・鹿又喜隆・佐久間光平ほか
Total Pages
528
Publisher
六一書房
ISBN
978-4-86445-103-1
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